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Employer's Voice

2011年10月17日

「仁」と「義」

シンガポール日本通運株式会社 マネージャー 小清水一仁 業種:ロジスティックスプロバイダー

 

「仁は人の心なり、義は人の路なり」という言葉があります。 「仁」の解釈においては、孟子と孔子では考え方に微妙な違いがあります。まず、孟子は「仁」を「心」、「人に忍びざる心」、つまり人として思わずにはいられない内発的な思い、即ち人間性そのものであるとしているのに対し、孔子は「仁」が個人の人格であり、いざという時にもなお守り通す確固たる「忍」であるとしています。言い換えると、人間性としての「仁」は、生まれながらにすべての人に備わっているもの(孟子)であるのに対して、人格としての「仁」はいざという時にならなければ分らない(孔子)ものということになります。人によって解釈が違うと思いますが、私は「人への思いやり、慈悲の心があるからこそ善意の判断がつく」と理解していますので、どちらかというと孟子に近いものだと思っています。
仁は優しく母親のようで女性的な性質、義は高潔で厳格な正義で言わば男性的な性質を持っているといわれます。また、両者はどちらかに偏りすぎるのではなく常にバランスを保つことが望まれます。

 

さて、孟子の教えは、現代社会の中で通じることはあるのでしょうか。
私たちは今、違った文化・習慣をもったさまざまな国々と付き合っていかなければならない状況に置かれています。時には、過去の歴史・文化の違いからお互いに意思疎通が上手く行かず、通じ合えないことがあったりします。私がシンガポールで経験した中では、先にEmployer’s Voiceへ寄稿された丸茂さんがお話されていた肉食系?社員との出会いがありました。
彼は突然、何の前触れもなく私のところに来るや否や、無言で一枚の封筒を私に手渡しました。中身は退職届けです。その時の私は、自分の信念が否定された思いで一杯でした。赴任当時から、シンガポールスタッフはスキルアップのために転職を繰り返すことが多いと聞いておりましたが、どうして自分の部下が、と当時悩みました。原因は、孟子の教えに照らしあわせれば、私が女性的な性質に偏りすぎていたことにありました。

 

苦い経験ばかりではありません。シンガポールに駐在して約4年間が過ぎ、その中で生まれた社員との信頼・協力関係は私にとってかけがえのない財産となりつつあります。私は、国際間輸送業務を中心とした仕事に従事しており、お客様との信頼関係が重要になってくる職業ですので、日本的経営の優れた面の一つである顧客サービスに対しては、そのDNAを多くのナショナルスタッフへ理解してもらうことも使命であると考えています。人種が違っても同じ企業で働いているのですから、共通認識を持つことでよりお互いを理解しあえると信じています。そのためにも、相手を思いやる気持ち・厳格な正義をいつも心の片隅に持ちたいものです。

 

2011年は残念なことに全世界的に災害が多い年になりそうです。とりわけ3月に発生した東日本大震災においては、多くの尊い人命が失われ、原子力発電所の事故で現在でも先行き不透明であります。震災当時、世界各国から緊急救援物資が送られている様子をニュースで見ました。日本政府も最近発生しているシンガポール近隣諸国での洪水被害について援助物資の提供を決定し、諸外国に対し援助を行っています。このようなニュースに触れるたびに、孟子の教えは今も生き続けていることを感じます。

 

日本人がより一層グローバル化を目指し、世界経済を牽引していくためには、国際感覚を身に付けると共に孟子の教え「仁は人の心なり、義は人の路なり」を持ち合わせることも必要ではないかと信じています。
個人でできることは限られていますが、日々相手を思いやる気持ちを持ち、皆と喜びを分かち合えるよう心がけたいものです。

 

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.199(2011年10月17日発行)」に掲載されたものです。

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