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2013年3月4日

公共マナーは仕事に通ずる

Pentel(Singapore)Pte Ltd マネージングダイレクター 伊藤 昌夫 業種:メーカー

シンガポールに赴任して約2年になりますが、赴任当初に最初に受けたカルチャーショックは今でも良く覚えております。

赴任して最初の週末でした。コーヒーを飲もうと、ホテルの近くのコーヒー店に朝早くから出かけて行った時のことです。コーヒーを買った後、外に移動して席を探そうと思った瞬間、目の前の光景に動きが止まりました。すさまじい汚さだったのです。席はほとんど空いていたのですが、空いているほぼすべての席に飲み終わったカップ、ケーキやパンの皿、包み紙などが散乱していました。しかもフロアーはこぼした飲み物や食べ物でベタベタ。「あれ、シンガポールって綺麗な国じゃなかったっけ……?」それがこの国で受けた最初のカルチャーショックでした。

早速そのことを私の前任者に話すと「ああ、それはシンガポールでは店員の仕事だからね。店員が忙しいと片付けられないんだよ」とのこと。なるほどとは思いつつ、日本ではそういう所ではお客さんが自分で片付けるよなあ、と思ったのを覚えています。その後もホーカーやフードコートで散乱する食器を見ると、そういう“システム”とは理解しつつも、自分で片付けないことに対する違和感のようなものをいつも感じていました。

ところで、現在携わっている業務の中で大いに頭を悩ませたことの一つに、“人を評価する”という事があります。立場上当たり前ではあるのですが、今までは主に評価される側だったため、いきなりの180度の変化に、特に最初の昇給時期とボーナス評価時期は悩みに悩んだのを覚えております。

人を評価するにはその人の仕事ぶりをしっかり見ている必要がありますが、多くの社員の仕事ぶりを見ているうちに、仕事や会社に対する姿勢・考え方というのは、驚くほどその人の仕事ぶりに表れるという事に気付きました。当然の事ですが、その考え方がしっかりしている社員は自ずと評価も高くなりますし、放っておいてもどんどん伸びていきます。しっかりとした考え方とはどの様なものか、具体的に挙げますと次のようになります。

  1. 常に自分の仕事を向上させようという意識があるか
  2. 自分の仕事のみに完結せず、後工程を意識した仕事をしているか
  3. 自分の仕事・会社での役割を理解しているか

残念ながらこのような考え方が備わっていない社員がいるのも事実です。そのような社員には上記3つを中心にアドバイスをするのですが、その場ではわかってくれても、考え方を変え、それを実践に落とし込んで仕事のやり方を変えていくというのは、なかなか難しいようです。それは、考え方は一つの習慣であり、小さい頃から培った習慣を変えるのは容易ではないからなのではないかと思っております。

さて、冒頭のカルチャーショックですが、先日大変興味深い出来事がありました。私はスポーツジムに通うのが好きで、日本にいる時も週に3〜4日は通っておりました。こちらでの仕事も落ち着き、3ヵ月程前から会員制のジムに通い始めましたが、そこでまた日本のジムとの違いに戸惑うことになりました。使った器具は元の置き場に戻っていない、ジュースの空き容器、使用済の貸タオルは置きっぱなし……。日本のジムではまず見られない光景です。「後で使う人のこと考えて自分で片付ければいいのに……」と思いながら、自分で使うためにその場を片付けていた時、ハッとしました。目の前の光景と、コーヒー店やホーカーで見た光景が重なったのです。

ジムはホーカーなどと違って、基本、自分で使ったものは自分で片付けなくてはいけません。ジム利用者の最低限のマナーだと思っています。しかし、それが当たり前ではなく、“他人が片付けてくれる”ことがホーカー等で身に付いてしまった人の習慣が、こういう場所で出たのでしょう。習慣とは本当に恐ろしいと思った瞬間でした。

公共マナーとは、社会の中での自分の立場を理解し、周りの人のことを考えて行う行為だと思っています。それは会社の中で自分の役割を理解し、後工程を考えながら仕事をすることに似ています。もちろんそれがすべてではありませんが、小さい頃から培った考え方や習慣は、仕事のやり方にも大きく影響を与えるものなのではないか、と考えさせられます。

 

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.229(2013年03月04日発行)」に掲載されたものです。

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