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2014年5月5日

日本人の契約観は東南アジアで通じるか?

オーン&バズール法律事務所 Foreign Lawyer(日本国弁護士) 高瀬 秀次郎 業種:法律事務所

弊社は、シンガポール、マレーシア等の東南アジア法務を得意とする国際法律事務所です。私はそのジャパン・デスクを率いて日系企業の法務のお手伝いをさせていただいています。約1年半前にシンガポールの他の法律事務所で研修をするために来星しましたが、研修終了後の昨年9月からは現事務所に完全移籍いたしました。それ以前は、日本で弁護士として7年弱、国際取引を主とした企業法務に従事しておりました。弁護士としてはまだまだ若輩者ですが、私なりに日々東南アジア法務に携わっていて感じることの一つを以下述べさせていただきます。

東南アジアにおいてビジネスを行う日系企業の中には、残念ながら契約書の重要性に関する認識が十分でない方々がまだまだいらっしゃるように思います。

確かに日本において日本の企業間で取引を行う場合は、同じ業界慣行、似たような背景をお互い持っているので、きちんとした契約書が無くとも、お互いの共通理解で契約書の行間を埋めることが可能でしょう。また、仮に契約内容の認識に違いが生じたとしても、法学者の川島武宜博士も述べているように「訴訟を好まない日本人」は事を荒立てようとせず、話し合いで事を解決しようとし、裁判等の大事に至ることは比較的少ないかもしれません。

しかしながら、東南アジア等の当事者とのビジネスの場合は、そのように事が運ぶとは限りません。相手が共通の慣行や背景を有さない場合が多く、例えばそもそも契約書にきちんと定められていないことは、こちら側が日本人の感覚では「当然にやってくれること」と思っていても、そのように認識して動いてくれるとは限りません。また、関係が悪化し争いになった場合、同様の事情から話し合いでの歩み寄りの手がかりを見つけることが容易ではなく、相手が裁判等の強硬手段に出てくるリスクは決して低くありません。もし裁判になってしまうと、企業は莫大な出費を強いられるばかりか、多大な時間と労力を本来のビジネス以外に注がなければならなくなってしまいます。

貴社には、契約書をチェックする担当者はいらっしゃいますか?

私は、在星日系企業の少なからずが、マンパワーの限界等からか、契約書を含む法務全般に十分目配せをできずにいるため、裁判等のリスクに日々晒されているように感じます。微力ながらそのような方々の力になりたいと思ったため、私は昨年の研修終了後に日本へは戻らず、現事務所に移りました。

裁判で訴えられる等の大きなリスクを避けるためにも、最低限、日系ではない企業や個人と契約を結ぶ場合には、弁護士や企業内部の法務担当者にきちんと契約書のチェックをしてもらうことをお勧めいたします。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.256(2014年05月05日発行)」に掲載されたものです。

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