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「Wonder」をアートで体感、信じるものを再び見直すきっかけに

  • シンガポールビエンナーレ2008 総合ディレクター南條史生
シンガポールビエンナーレ2008

東南アジアの文化芸術ハブを目指して2006年から始まった現代美術の祭典、シンガポールビエンナーレが、9月11日に二度目の開幕を迎えた。シンガポールビエンナーレ2008(SB2008)は、国家芸術庁(NAC)主催の下、世界40カ国から66名のアーティスト達が集まり、時代を反映した見応えある作品の数々を3ヵ所のメイン会場を中心に約2ヵ月間にわたり披露する。

都市経済や観光産業を刺激するグローバル化の旗印として、 世界中の各都市で様々なアートビエンナーレやトリエンナーレが開催されている昨今、全体のコンセプトを取りまとめる総合ディレクターは、それらの個性を織り出す重要な役割を担う。SB2008の総合ディレクターとして、前回に引き続き六本木ヒルズの森美術館館長を務める南條史生氏が指揮をとった。今年のテーマは「Wonder(ワンダー)」、観る者に一体どんな驚きや感動を与えてくれるのか、南條史生氏に聞いた。

シンガポールビエンナーレ2008 総合ディレクター 南條史生氏
AsiaX
前回のビエンナーレのテーマ「Belief」に続き、今回は「Wonder」ですが、テーマにはどのような意図が込められているのでしょう。
南條
「Belief」の後に「Wonder」というテーマが来るのは、かなり面白いかなと思いました。通常は逆の順番で起こりうるでしょうけれど、自分が信じるものを、何か「wonder」な経験を経て、もう一度認識を新たにすることは必要なプロセスだと思います。それは世界情勢についても、再び現実を見直してみることにつながるかと思います。ですから、「Wonder」 には、驚き、感動すると同時に疑うという意味が入っているわけです。
一方で、現代美術を振興するには、やはり一般の人が見て、驚き、 感動しなければ理解されないでしょうから、「Wonder」 な作品を集めることで、それぞれが面白いと感じる体験をして欲しいという思いも込めています。
AsiaX
今回で二度目の総合ディレクターの任務となりますが、苦労した部分を教えて下さい。
南條
まず出発点では、何を継承し、何を改めるかという方向性が必要でした。
前回はシンガポール初のビエンナーレということもあり、コンセプト、アーティストの選定の仕方、会場構成など、次回へ繋げる意味でも全方位に「穴」のないバランスの良いものでした。今回はある方向にとんがりたいと考えていましたが、少しビデオの作品が多めだったかなという程度で、結局それは出来なかったかもしれません。全体としては、前回よりは落ち着いた雰囲気といえるでしょう。
作品の中にはいくつか前衛的なものもありますが、今回は検閲により展示を引き止められることがなかったです。前回は、作品の正当性を説明するために私が自ら政府と掛け合った事もありました。
AsiaX
SB2008で見逃せないポイント、南條さんが特に思い入れのある作品をいくつか教えて下さい。
南條
まず一番目立つのは、坂茂さんの、コンテナと再生紙で作り上げたコンテナパビリオン でしょう。この建物は、エスプラネード側からも見える大きさです。その中に作られるHans op de Beeck の雪景色、 Emilia&Ilya Kabakovのユートピア、Anthony McCallの光の作品。又、サウスビーチデベロップメントでは、Su Mei Tseのネオンのブランコ、Leonid Thishkovの落ちてきた月、Zhan Wang の宙に浮かんだ岩、シティホールでは、Ki Bon Rhee の水中で踊るヴィットゲンシュタインの本、Prasad の炎の部屋などでしょうか。
AsiaX
同時期にシドニー、光州、上海、横浜といった汎アジア地区でビエンナーレ、トリエンナーレが多く開催されます。シンガポールのビエンナーレの特長はどのあたりになりますか?
南條
まずは、ビエンナーレの会場がある種の特徴を生み出しています。今年のメイン会場は3つありますが、前述のコンテナパビリオンは、マリーナベイのIR建設現場に囲まれながら新しいタイプの建築の実験となり、未来を示唆する。サウスビーチデベロップメントやシティホールでは、コロニアルな雰囲気が南国にいることを感じさせながら、旧い建物の持つ歴史が過去と現代を対比させてくれる。それぞれが、変わりゆくシンガポールの街を見つめ直すきっかけにもなるでしょう。
内容的には、比較的スケールが大きく、インパクトのある作品が多いことですね。そうすることで一般の人にも近づきやすくしたつもりです。また、半分以上がアジアの作家であり、中近東からの作家も多いです。前回もそうですが、国際的にはまだ知られていない作家を多数紹介する姿勢を保っています。又、テーマをシンプルにして、その解読の幅を広くとっていることが挙げられるでしょう。
AsiaX
シンガポールにおけるアートビエンナーレを今後も発展、定着させていくための課題はどういう点だとお考えですか?
南條
アートはいつも一つの方法では発達しないと思います。
インフラが全体として浮上する必要があります。ですから、ビエンナーレだけでなく教育機関、アーティスト・イン・レジデンス(作家及び芸術分野の研究者の招聘制度)、オークションやアートフェアの充実、いい先生を招聘すること、その他税制の優遇策による寄付金の振興など、多くの施策が全体として揃うことで、アートの理解を深め、支持を厚くしていくでしょう。
ビエンナーレは、そうした全体の進歩と、一般の人達の理解が深まることで、定着していくのではないかと思います。それはまたクリエイティブ産業をいかに育てていくかという国全体の意志にも寄る所が大きいです。
AsiaX
SB2008とは別に、南條さんが取り組まれている最近のプロジェクト、今後のご予定を教えて下さい。
南條
六本木の森美術館では、アネットメッサジェ展、11月には、インド現代美術展を開催します。今年4月に南條事務所共々、コンサルタントとして関わった十和田市現代美術館が開館しました。来年3月には、六本木全体を使ったアートナイトというのを六本木ミッドタウンと一緒に実施する予定です。
将来は、出来れば日本とアジアに美術館、あるいは美術関係の教育機関の設立に関わり、機能させられたらいいと思います。そういう意味では、ここまで縁のできたシンガポールに今後も関わっていければいいですね。。
3回目のビエンナーレに再度、というのは?という質問には、「いや、もうないでしょうね。」と微笑みながら、2期連続でビエンナーレの総合ディレクターを務めたことは大変名誉なことでした、とつけ加えた。ビエンナーレを通して、現代美術が1人でも多くの人に語られ、現代美術を世界に発信する場としてシンガポールのプレゼンスを確立するという大きな青写真に取り組んで来た氏の貢献は大きい。そのスピリッツは、これまで協同してきたアーティスト達、多くのスタッフやボランティアに継承され、次のビエンナーレへとバトンタッチされていくことだろう。

南條史生

キュレーター、森美術館副館長。
1949年東京生まれ。
国際交流基金、ICA名古屋、ナンジョウアンドアソシエイツを経て現職。
1997年ヴェネツィア・ビエンナーレ日本館コミッショナー、1998年台北ビエンナーレコミッショナー、ターナープライズ(英国)審査委員、2000年ハノーバー国際博覧会日本館展示専門家、2001年横浜トリエンナーレ2001アーティスティックディレクター等を歴任。2005年ヴェネツィア・ビエンナーレ金獅子賞審査員、2006年第1回シンガポールビエンナーレ2006アーティスティックディレクターに就任。
大型のパブリックアート計画、コーポレートアート計画のコンサルタント、各種選考委員、審査委員、「アーティスト イン レジデンス」プロジェクトへのアドバイザー等としても活動。AICA国際美術評論家連盟)副会長、CIMAM(国際美術館会議)評議員。慶應義塾大学講師。慶応アーツセンター訪問所員。

2008年09月15日

文= 桑島千春

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