アジアエックス創刊100号記念座談会
シンガポールで活躍する方々に毎回表紙を飾ってもらうというアジアエックスならではの企画が「表紙の人」。第100号を発刊することで、アジアエックスは100名近くの方々に出会い、それぞれのストーリーを紹介してきたということになる。常に進化し続けるシンガポールの現在を切り取るべく、過去の「表紙の人」を代表する5名の方々との座談会が実現した。会場:PricewaterhouseCoopers Singaporeミーティングルーム
「表紙の人」時代を反映する在シンガポール日本人の人物誌

生津賢也さん57号(2005年8月22日発行)
ミスミ・サウスイーストアジア社長。中央大学文学部卒業後、証券会社でトレーダー、アメリカ・オハイオ州の大学で日本語教師、中国(北京)留学、メーカーにおけるODAビジネス等を経て2003年株式会社ミスミに入社。2005年に現地法人社長として来星、シンガポールを拠点にタイを除くアセアン・オセアニアなどを統括している。71号(2006年4月3日発行)でトップインタビューにも登場。
- 編集部
- 「表紙の人」に登場して頂いたことで、何か印象に残ったことはありましたか?
- 生津
- レストランなどで「載ってましたね」と声をかけられました。後日インタビュー記事も掲載されたのですが「偉そうだな」と本社からチクりといわれましたね。
- 清瀬
- 大学の同窓会の時に、私がインタビューで話した「水辺」という言葉にいろいろコメントが集まったり、掲載の写真が別のところで思わぬ活用をされたり。
- 中川
- 北海道新聞のシンガポール支局の方から、アジアエックスに先を越された、とご連絡頂いて、海外で活躍する地元出身者として紹介記事を書いて下さいました。日本とシンガポールの両方の家族がとても喜んでくれました。
- 吉田
- まずは子供が喜んでました(笑)。それと私の具体的な仕事内容が伝わった事で、仕事としての問い合わせを頂いたりしました。
- 編集部
- この企画のそのものについて何かアドバイスがあれば教えて下さい。
- 生津
- やはり個人個人のストーリーには皆さん関心があるし、ビジュアルは大事です。面白い企画だと思います。
- 桑島
- これまでで既に100名分の「表紙の人」のストーリーが蓄積されているわけで、そのまま在星日本人の人物誌として、その時代を反映する資料になるかもしれませんよね。
- 吉田
- アジアエックスのホームページに「表紙の人」のプロフィールが掲載されたのはとても有用でした。ページのアドレスを日本の知人などにもメールで送ることができ、私自身を知ってもらうのと同時に、ビジネスの内容も直ぐ理解して頂けました。
- 清瀬
- シンガポールへこれから仕事で訪れる、または仕事をしようかという人達の入り口として、「表紙の人」のプロフィールは有効な切り口を示す情報になっていると思います。
- 生津
- 「表紙の人」には活動的な女性が多く登場しているようですね。英語を使う仕事でシンガポールで勝負する女性の方が増えているように思います。アメリカなどに比べると、人種へのこだわりが少なく、シンガポールは同じ英語圏でも同等に仕事ができるからなんでしょう。
シンガポールの現在。景気好調と暮らしやすさの反比例?

中川真理子さん24号(2004年12月13日発行)
北海道出身。中央大学卒業後、オーストラリアに留学し、オーストラリア(NSW州)で弁護士資格を取得。2004年2月からケルビン・チア・パートナーシップ法律事務所で、外国法弁護士として勤務している。「表紙の人」掲載当時は日本語学習中の夫(マレーシア華人)と二人暮しだったが、今年2月に愛娘息子が誕生。現在は妻、母、弁護士の3役をこなしている。
- 編集部
- F1開催、カジノリゾート開発と、話題に尽きないシンガポールですが、今後、ご自分のキャリア、ビジネスの角度からそれらの動きに対してどのような考えをお持ちですか?
- 吉田
- イベント尽くめで、経済成長には良い事が続いています。証券市場・不動産市場共に上昇の一途で景気はいいですし、カジノリゾートが完成する2010年までは上向き調子は続くというのが政府の見解です。人口増加政策の過程で、外国人労働者は急増するでしょうし、それに伴い車両等も増加する。政府機関が、道路・公共輸送機関・住居・オフィス等のインフラ整備を追いつかせながら、どう上手く対応して行くのかがキーになります。もしそれが上手く行かなかった時、逆に魅力のない国になってしまうリスクも大いにあるでしょう。
- 生津
- MISUMIはファクトリーオートメーション用の部品及び金型部品を取り扱うメーカー兼商社ですので、 産業の空洞化ともいえる製造業の縮小が進むシンガポールでは、 金融やゼネコン、サービス業など飛ぶ鳥を落とす勢いで伸びている業界とは異なり、我々のビジネスにとって逆風が吹いている状況です。R&Dを行う企業は別として、ブルーカラー型の社員を多く必要とする労働集約型の企業、つまり我々のメイン顧客は安い労働力を求めて中国やベトナム、タイといった国で活路を見出しているのが現状です。それに伴い、就職活動をする学生も、まるで日本のバブル期のような発想です。手を汚す事のない仕事、金融やサービス業が人気で、既存の社員ですら安易にそちらへ転職していく傾向があります。このまま一本調子で景気が上向いて行くのか、日本のバブルのように一端景気がガクンと下がるのか、今はその瀬戸際にあるような気がします。
- 吉田
- 弊社のスタッフも魅力的なサラリーをオファーされて金融機関等に転職していくケースが増えました。そんな状況がいつまで続くのかということを期待半分、怖さ半分で見てますね。

清瀬一浩さん81号(2006年9月4日発行)
兵庫県出身。日本大使館二等書記官。大阪大学卒業後、1999年に建設省(現:国土交通省)入省。東京勤務の後、海外勤務の希望がかなって2006年7月来星、まもなく丸1年を迎える。建設・不動産分野、都市計画分野などを担当し、シンガポール政府とのパイプを活かしながら日系建設会社の当地での活動をサポートしている。地元姫路市を代表して「ひめじ観光大使」も務めている。
- 編集部
- ジョブホッピングの傾向は以前からあるものの、それが加速して人材不足になり、そこからくる給与の上昇、物価の上昇、また最近目に余る不動産市場の高騰などを考えると、暮らしやすいはずのシンガポールがそうでなくなるのではないかと言う気もします。
- 清瀬
- 実際そうなりつつあるように思います。これほど勤務地が集約されている小さな国で、外国人労働者ですら郊外に引っ越して行かなければならない状況というのはいかがなものかと。東南アジアの中で、シンガポールはインフラが整備されている国ではありますが、金融、サービス業といった今後のシンガポールの発展を支える産業に従事する外国人労働者をつなぎ止めておけるだけの競争力を維持できる方向に向かっているのかどうか疑問です。
- 生津
- 一国家で産業の空洞化が進んだとしても、製造業比率が20%を切る事はありえないというエコノミストもいますが、この国でますます金融、サービス業が伸びて行くことで、その割合がどんどん減少しながらも国が成り立つという新しいモデルを提供するのではという期待感はありますね。
- 吉田
- モナコ、ルクセンブルグのような小国を顧みると、都市国家としての継続的な存続もあり得ると思います。
- 生津
- 私にとってのシンガポールは、まるで「トータルリコール」という映画に出てくるようなミュータントの国、人工国家を連想させる。
- 清瀬
- 生活していて、巨大なテーマパークのようにも思えて来ます。
- 桑島
- ルネッサンスシティの旗印のもとに芸術行政を打ち出して、エスプラネードなどのインフラを早急に整えて世界中からいろいろなエンターテイメントを呼び込むあたりにもそれを感じますよね。
- 生津
- いいところは、世界の本場のもので質の高いオリジナルのものをもってくることで、ライフスタイルが洗練されていく感じがします。
シンガポールでのビジネス考

吉田実貴人さん69号(2006年3月6日発行)
大学卒業後、銀行系不動産会社にて法人仲介業務や鑑定評価業務に従事した後、公認会計士を取得。日本で監査法人に勤務した後2005年5月からはPricewaterhouseCoopers Singaporeに勤務し、日系企業の相談業務及び会計監査を担う。「株式公開マニュアル(税務研究会、2003/6発刊)」などの著書があるほか、様々なセミナーで講師としても活躍している。
- 吉田
- 先日、シンガポールの政府予算案が発表されましたが、添付資料に、税率を変更した場合の効果測定にローテクともいえる経済理論が開示されていました。実際に政策の効果を合理的に予測・測定し、実務で運用されていることに新鮮な感動がありました。
- 中川
- やはり小さい国ですのでそれが可能なんですよね。
- 吉田
- そう、日本の屋上屋を架けるようながんじがらめの関係が少ないので予測が立てやすいという面はあります。
- 生津
- 統制経済で動いているというか、国の指標がきちんとあることで、他国の現地法人と比べても将来の見通しが立てやすい。
- 吉田
- また、政策を単発でぶち上げるのでなく、毎年しっかり見直して行くところも納得感があります。日本の場合、政策を大きく打ち上げて満足してしまい、政策の効果を確認していないところに課題があると思います。一方、シンガポール政府はしつこくしつこく取り組んで行くことで実効性のある政策を実現していると思います。
- 清瀬
- 政府も、理屈で動いていますね。日本だと、客観的なデータやそれに基づく合理的な論理も検討されますが、実際には、そうした理屈と違う次元で政治が動いている部分が多々ありますが。また、日本ですと、ある法制度を作るときに「自分のシマを荒らされたくない」といった縦割りに陥りがちですが、シンガポールは、恐らく国が小さい事もありますが、各省庁が上手く協働できているように思います。これからの日本は、そんな縦割りの弊害を国民の税金で賄う余裕はもはやないわけですから、シンガポール的な合理性で進めることを学ぶ必要があるのかもしれません。
- 編集部
- 今後のシンガポールの発展に日本企業、日本社会、または個人としてのプロフェッショナルがどのように貢献して行くと思われますか。
- 生津
- ドイツの品質、日本のサービス、中国のコストと良くいわれます。やはり日本のサービスの質というのは他の追随を許さない奥の深いものがあり、この国に対しても今後貢献できる部分が多々ある。ビジネスの仕組みを提供するというものもそれに含まれると思います。
- 吉田
- 我々会計事務所は、会計監査・税務申告だけでなく会社設立のお手伝いや、税務署への届出、記帳代行などもします。最近では小規模で事業を立ち上げられる金融関係の方からのご相談が多いように思います。資金は日本から、運用するのも日本人、場所はシンガポールというパターンですね。税率にもメリットがありますが、日本国内では金融庁の規制でできない実務上の運用手法がシンガポールでは可能というのが進出理由のようです。
- 編集部
- もし現在のシンガポールで、時間、資本のことは抜きにしてビジネスを立ち上げるとしたら、何を始めてみたいですか?
- 中川
- ホーカーを始めて大レストランに発展させるくらい大きくしてみたいです。
- 吉田
- 私はホーカーセンターの経営をしてみたい。「ホーカーREIT」として全体をプロジェクト化するというのはどうでしょう。
- 清瀬
- 通常テナント料はどれくらいなんでしょう。うどんやなど和食もよさそうですよね。
- 編集部
- レンタル料は場所によりますし、賃貸も変動制のようです。うどんやというのも一見良さそうですが、実は意外と難しいようです。シンガポールにも2件程、本場さぬきうどんのお店がありましたが、そのままの味ではシンガポール人に受け入れられず、彼らの好みに調整した味では日本人が口にしなかったようです。
- 中川
- ローカルの方には麺が太くて塩っからいものはだめみたいですね。
- 清瀬
- なるほど。私は、当地に「ぐるなび」のような総合的な見やすい良いグルメサイトがないので、食べ歩きをしてその評価を書いたりしたサイトを作りたいです。
- 桑島
- そういえば、これだけ食に口うるさい国民性にも拘らず、口コミ情報で成り立つようなグルメサイトがないですよね。
- 中川
- まだ家族や近しい友人達の間での口コミがメインで、サイトに書き込むところまでの文化が育ってないのが実情だと思います。地元の人しかいかないようなところがまだまだ多い。
- 生津
- キーワードはサービスですよね。サービスの質がやはりまだまだです。シンガポールが欲しているのは日本的なサービスだと思うんです。例えばそのスタンダードでゲイランあたりを整備すると随分よくなると思います。
- 編集部
- この際、そこに我々で新しいホーカーを立ち上げ、清瀬さんのサイトからPRするというのはどうでしょう。皆さんで一緒にビジネスを立ち上げたら面白そうですね。私は以前、バチンコ屋を考えた事があります。日本で使用された中古の機種を輸入してみてはどうかと。当時は賭け事なんて御法度でしたが、今や時代が変わりましたから、どうでしょうね。
- 吉田
- それはパチンコの本格的な海外初進出にな成るかもしれませんね。
- 中川
- アミューズメント系の機械を入れる許認可ライセンスの手配をした経験はあります。ゲーム機としてならあまり規制があるとは思いませんが、ビジネスをするためにはライセンスが必要になると思います。景品や換金のシステムがまだ引っかかるかもしれません。
シンガポールの日本語メディアにできること

桑島千春さん34号(2005年3月7日発行)
千葉県出身。大手総合情報出版社に勤務後、夫の転勤によりカナダ、香港、シンガポールへと移住。シンガポールにてアートマネジメントの会社「E-ART WORKS」を設立し、シンガポール内外で各種美術展の企画や作家のマネジメントなどを行う。 アジアエックスの特集記事やインタビュー記事でライターとしても活躍中。
- 編集部
- 皆さんがメディアに期待する事というのはどういうことでしょう。特にアジアエックスに向けてアドバイスをお願いします。
- 生津
- 基本的には情報です。公的機関から手に入れられないような指標、例えばシンガポールの景況動向、インドネシアの工業団地の動向等、他にはない指標でミクロな情報をまとめて欲しい。
- 清瀬
- 日々の報道では得られない、時間軸の長い情報、そこに至るまでの歴史的な経緯が時々あると新しく来た人、短期間しか滞在しない方にも有効かもしれません。
- 桑島
- 確かに。シンガポールの風景、政策は刻々と変化しているので、どういった経緯でそうなったとか、その主旨などの情報や解説という事ですよね。
- 中川
- 現地のローカル紙と同じではしょうがない。どんな事を大事に、日本人の視点から見たシンガポールが現れるような形の論説、ニュースなどが知りたい。ただ翻訳しただけの記事では意味がないですよね。
- 吉田
- 一方で、日本の経済、政治の分析を載せてみると面白いのではと思います。日本国内では、インディペンデントな新聞等を除いて、大手の新聞会社などやはり政治等に対して批判的な事は書けない状況があると聞いています。こちらにいる経験豊富で博識の駐在員やプロフェッショナルな方々が納得できるようなユニークな視点の社説のようなものがあると受けるんじゃないでしょうか。逆に日本では出来ない事ですから、将来的には日本のためになるような気がします。政策提言のようなものを外部から少しづつ発信していけることができたら、それを担えるのは海外の出版メディアしかないのかな、と思います。
- 中川
- 法律の記事を書かせて頂いていますが、法的な知識がどのくらの読者を想定して書けば良いのか迷う事があります。たいてい初級編として分かりやすく書いているのですが。
- 清瀬
- 専門知識に頼る情報というのは、ウェブサイトと組み合わせて、入り口を紙媒体で初級編として、ウェブで中級、上級編の情報を提供するような形がいいかもしれませんね。
- 編集部
- シンガポールでのメディアは、紙は紙、ネットはネットで分かれていて、上手くミックスされていないことが多い。アジアエックスでは、そのメディアミックスの方向を今後とも実現させて行きたいと思います。これからも時代にあったアンテナを立てて読者の皆さんに役立つ情報を提供していきたいと思います。今後ともどうぞよろしくご指導ください。