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社説「島伝い」

2019年6月25日

シンガポールの日本食市場の現況

 1990年代半ば、オーチャード地区のシンボル・義安城にシンガポール髙島屋がオープンしたばかりの頃のシンガポールでは、日本食レストランの数も少なく、日本料理と看板に掲げる店で味噌汁がびっくりするほど不味かった、といったことが珍しくありませんでした。当時は、海外で日本産米を手に入れるのも困難で、当地では米国産の日本米が販売されていましたが、周辺国ではそれすらなく、出張の際などに手土産にすると喜ばれました。

 

 現在のシンガポールの日本食市場を改めて眺めてみると、本当に大きく変わりました。日本食レストランの数の多さはもちろん、各レストランで供される料理は美しい盛り付けで味が良いのはもはや当たり前、おしゃれで洗練された雰囲気のお店も増えました。寿司、天ぷら、刺身といった日本食の代表的メニューから、丼もの、串揚げ、しゃぶしゃぶ、ふぐと多種多様な専門店があり、会席料理や創作料理の店もあります。ここ10年ほどで飛躍的に増えたラーメン店は、ホーカーセンターやフードコートも含めると200店舗以上あるといわれ、地元客にも人気の高い豚骨ラーメンだけでなくさまざまな種類のラーメンが楽しめます。

 

 さらに、ここ数年で変わったと感じるのが日本産米を取り巻く環境。これは、2014年にクボタが日本産米の輸入精米事業を開始したことも大きいようです。手ごろな価格の定食屋でも日本産米が使われ、ごはんが美味しいと感じることが増えました。

 

 日本食を取り巻く現在の状況を作っている要因として、特に2011年以降、海外展開に取り組む日本の地方自治体が増えたことがまず挙げられます。地域色豊かな農産物や海産物、加工食品などを当地で目にする機会が増えました。また、シンガポールの消費者の舌が肥えてきたことも大きな要因でしょう。2018年にシンガポールから日本を訪れた人の数は過去最高の43万7,000人。日本で実際に食事をした経験が何度もあり、美味しい日本食に関心の高い人達が大幅に増えた結果、日本食に関わるさまざまな企業やレストラン、小売店などが日本と遜色ないクオリティのものをシンガポールで提供するためにさまざまな工夫を重ね、消費者のニーズに応える形ができてきました。

 

 日本食は、シンガポールにおいてもはやブームではなく定着しているといえます。今後も日本食の有力な市場となっていくのは間違いないでしょう。この状況を踏まえて、これからは日本の四季をより強く意識した出し方や、食材以外のものをテスト販売してみるといった、新たな海外展開にもつながるチャレンジに取り組みやすくなるのではないかと期待しています。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.347(2019年7月1日発行)」に掲載されたものです。

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