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社説「島伝い」

2018年4月24日

当たり前ではないこと

3月に人材開発省(MOM)が発表した統計データによると、2017年末時点のエンプロイメントパス(EP)保有者数は前年比で約4,500人減少したことがわかりました。その10年前、2007年末時点のEP保有者数は9万9,200人。その後、特に2010年代に入ってからは就労ビザの発給基準が厳しくなったにもかかわらずEP保有者数はほぼ毎年増加、2016年には19万2,300人と9年間で倍近くに達していました。それが昨年ついに減少に転じたようです。昨年1月からの就労ビザ発給基準厳格化が、データにも表れたものといえそうです。EPの取得が一段と難しくなっていることはしばしば話題になっており、身近な事例などから実感している方も多いでしょう。

 

以前は、申請に必要な書類やデータを揃えて企業からMOMに提出できれば、あとは審査結果を待って本人がEPを受け取りに行くだけという場合がほとんどで、内定から1ヵ月以内に就業開始できるのが一般的でした。しかし、今や状況は大きく異なっています。まず求人する企業は、小規模な企業や短期間勤務などの例外を除いて、現地採用のポジションを一旦必ずジョブバンク(www.jobsbank.gov.sg)に登録し、人材を募集することが求められています。またEP申請後に、シンガポール国籍者ではない当該人材が必要な理由や、その人材を知るに至った経緯などについて、MOMから説明を求められる場合が増えているようです。内定後、EP申請を経て就業を開始するまでに数ヵ月以上を要することも珍しくなくなっています。このような状況を受けて、シンガポールで活動する日系企業の間でも、体制の見直しや体質改善を図る動きが増えているようです。

 

採用される側にとってもまた、以前とは状況が大きく変わってきています。かつては外国人が就労ビザを比較的取得しやすい国として、海外就職を目指す日本人の間でもシンガポールは人気の高い国でしたが、最近は当地での就職は日本人にとっても狭き門になりつつあります。企業が手間やコストをかけて、高い給与水準などさまざまなハードルを越えて採用することは覚悟の要ることであり、その分採用する人材への要求はおのずと高くなります。採用される側も、企業側の高い期待に応えるための覚悟が必要といえるでしょう。

 

企業も個人も、日本人がシンガポールで働けることは当たり前ではないことを改めて認識し、互いに努力することが、今後もシンガポールでの活動を継続し、成長し続けるために欠かせないことのようです。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.333(2018年5月1日発行)」に掲載されたものです。

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