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社説「島伝い」

2017年10月26日

余波を受けるか、波に乗るか

シンガポールの就労ビザであるエンプロイメント・パス(EP)の発給基準が今年1月から一層厳しくなって10ヵ月が経ちました。2011年7月以降、発給基準は段階的に引き上げられており、その度に起こる変化について当欄でも取り上げてきましたが、今年の変化はやはり今まで以上のものであるようです。

 

現地採用の日本人社員の月額給与を1,000Sドル以上上げてでもEPの更新を図るか、あるいは雇用継続を諦めるか、という選択を迫られて頭を抱えている、という日系企業担当者の話を耳にすることも増えました。企業としては、雇用した人材にはできる限り長く働いてもらい、会社の業績に貢献してもらうことで、その貢献に報いる昇給や昇進というサイクルを作りたいところですが、そのペースとEP取得のために必要とされる給与額が乖離してしまうと、サイクルを成立させるのが難しくなります。

 

一方現地採用者の中には、仕事の内容はほぼ同じであるにも関わらずEP更新の度に給与が大きく上がり、数回の更新を経て気が付いたら給与が倍近くになっていた、というケースも出ています。給料が増えることはもちろん嬉しいことですが、高度な資格を取得したり、リーダーとして大規模プロジェクトを率いて成功させた、といった訳でもないのに、自分への評価とはほぼ無関係な大きな昇給には違和感もあるようです。

 

EPの最低給与月額は現在3,600Sドルですが、2011年6月までは2,500Sドルでした。当時の為替相場は1Sドル65円前後。ここ数ヵ月は同80円台前半で推移しており、円換算での違いはより大きくなります。また以前は、20~30代の人材について最低給与月額でEP申請を行っても、大学卒など一定条件を満たしていればほぼ取得できました。ところが現在は、社会人経験数年程度の20代でも、EPの取得や更新ができているのはその倍近い額の給与の人材だけになりつつあるとも言われています。

 

EPの発給基準が厳しくなり始めてから、日系企業の多くがローカル人材の採用強化にも目を向けてきました。ただし、例えば「日系企業との取引が多いから日本語堪能なローカル人材を」というように、業務内容や社内の体制、仕組みはそのままであることが少なくなかったようです。今年7月号の当欄では人事制度の見直しを提案しましたが、そのような部分的な見直しに留まらず、もっと根底から何かを大きく変えなければいけないのかもしれません。大きな変化の余波に翻弄されて終わってしまうのか、あるいは変化の波に乗って進んで行けるか、ここ1、2年での行動が将来を大きく左右することになりそうです。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.327(2017年11月1日発行)」に掲載されたものです。

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