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社説「島伝い」

2017年2月20日

発給基準厳格化がもたらすもの

2000年代後半までのシンガポールは、外国人の就労ビザの取得が比較的容易で、海外就職を目指す日本人にとっても可能性が高い国の一つでした。しかし2010年代に入ってからは、当欄で何度も触れている通り、就労ビザ発給基準の厳格化が急速に進んでいます。今年1月から適応された新基準での新規申請や更新手続きを実際に行ってみて、改めてその厳しさを感じた方も多いでしょう。

 

従来は、企業が候補者に内定を通知すると、企業側は就労ビザの申請手続きに入る一方、内定者もその時点で所属している企業を退職するための手続きを進めるのが一般的でした。しかし最近は、企業が内定を出しても就労ビザが取得できず、既に退職手続きを取っている内定者にとってはもちろん、企業にとっても難しい状況になることが増えているようです。特に日本在住者が採用される場合は、就労ビザの発給が確定するまで退職手続きや海外転居のための準備を待たざるを得ないため、就業開始までの期間が必然的に長くなります。企業側もそのような事情を織り込んだ上で今後の採用計画を立てなければならないでしょう。

 

シンガポールの来年度国家予算案が2月20日に発表されますが、毎年の予算の構成を見ても明らかなように教育に非常に力を入れており、防衛予算に次ぐ2番目に大きな予算枠です。シンガポール国民を優秀な人材に育成したいという国としての明確な意図が国家予算にも表れています。外国人への就労ビザ発給についても、シンガポールの経済発展への貢献を期待するだけでなく、シンガポール国民が彼らから多くのことを学び、より良い人材が育つようにという考えがあるのは間違いないでしょう。

 

就労ビザの発給基準厳格化は、外国籍の人材が主戦力となってきた企業にとっては試練とも言えます。しかし、シンガポールの人材育成への取り組みを踏まえて、今後も当地でビジネスを展開していくためには乗り越えていかなければなりません。これから新たな変化が生まれ、流れも変わっていくでしょうが、良い方向に持っていけるか、企業も個人も試されることになりそうです。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.318(2017年2月20日発行)」に掲載されたものです。

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