シンガポールのビジネス情報サイト AsiaX社説「島伝い」TOP言葉の重み

社説「島伝い」

2007年7月2日

言葉の重み

「言霊」という日本語にも現れているように、古来から言葉には力が宿ると信じられ、良い言葉を発すれば良い事が、悪い言葉を発すると悪いことが起きるとされていました。結婚式で今でも「切る」「終わる」「戻る」などが忌み言葉とされるのは、このような言霊思想から来ているといわれています。

 
人が一生のうちに発する言葉の数は到底数え切れるものではありませんが、何気なく発した一言が、時に人に喜びを与えたり、励ましたりします。逆に、人に悲しみを与えたり、恨みを生むことさえあります。まったく同じ言葉であっても、その言い方や書き方、受け手の状況によって捉え方が変わり、意味が変わってしまうこともあります。言葉の難しさでもあり、逆に面白さでもあると言えるでしょう。

 
日本人が海外で働き、暮らす場合、使用言語は日本語以外の外国語にならざるを得ません。そして、どんなにその言語に堪能であっても、その言語能力が母国語を上回ることはまずありません。日本語だったらまだ言い様があるのに、外国語で同じニュアンスを的確に伝えられる表現が見つからない、という経験がある方も少なくないでしょう。それでも、仕事などでは外国語で情報発信し、外国語で書かれた文書を読みこなさなければならない場面が多々あります。

 
日本では「口約束」や「契約書の後付け」といったものがあり、それでビジネスがスムースに行くことは、信頼関係の良好さを示すもの、俗に言う「ニギれている」証しとされます。しかし、「契約書」は互いの合意事項に対する認識に齟齬が無いことを客観的にも示すことができるものです。「口約束」と「契約書」の内容に矛盾や相違点が無いことを確認することで、後々無用なトラブルを回避することもできます。仕事上やり取りされる様々な契約書も、実はナナメ読みすればまだ良い方、というのは日本人同士の会話で良くある話ですが、契約についての自分の認識が正しいことを確認するためにも、サインの前に契約書に記述された言葉を読みながら、客観的な観点で確認するクセを付けておくことは、ビジネスを遂行する上でも有意なのではないでしょうか。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.101(2007年07月02日発行)」に掲載されたものです。

おすすめ・関連記事

シンガポールのビジネス情報サイト AsiaX社説「島伝い」TOP言葉の重み