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社説「島伝い」

2007年10月1日

職住近接は夢になる

今年第2四半期の成長率が8.6%、上期の成長率も7.6%と昨年に引続きシンガポール経済は全体的に好調です。その好調さを反映して企業の採用活動も活発になっています。当地で活動する多くの多国籍企業と同様、日系企業でも現地化が進んでおり、日本人の現地採用という事例が増えています。

 
弊紙の求人・求職ページを2~3年前と最近で見比べてみると、給与の相場が上がっている印象を受けます。需要が高まれば価格も上がるのが市場原理。一見、働く側には好ましい傾向に見えますが、実際には年初からの不動産価格高騰に伴う家賃の急激な上昇に対応するための上げ幅に過ぎない場合もあり、実質賃金の上昇に必ずしも繋がっている訳ではなさそうです。いわゆるコストの上昇であり、企業の採用意欲に水を差す要因になることも懸念されます。

 

シンガポールでは、F1開催、カジノ総合リゾートのオープンとこれから先数年間ビッグイベントが目白押しで、国全体では好調路線が当面続いてこの先も明るい見通しですが、実際の生活レベルではインフレの影が色濃くなりつつあり、楽観的になってばかりもいられないようです。

 
また、これまではオフィスが集中するシティに近いセントラルエリア内に住んでいた人たちが、家賃が割安な、でもシティからは少々離れたエリアへ移っており、ひところ日本の大都市圏で問題になっていた「ドーナツ化現象」が既に起こっているのかもしれません。そのドーナツの輪は、いずれ国境を越えてジョホール・バルなどマレーシアへ広がることも考えられます。

 
現在の流れを見ても、シンガポールはビジネスの誘致に力を入れる一方、隣国マレーシアは「マイセカンドホームプログラム」を積極的に推進し、住む場所として「人」の誘致に力を入れています。物価はシンガポールのほぼ半分、毎日コーズウェイを渡ってシンガポールへ通勤する人たちが増えれば、ドーナツの輪拡大に拍車をかけることは十分あり得ます。

 
シンガポールは働く場所、マレーシアは住む場所――東京ではなかなか叶えられなかった職住近接が実現して喜んでいたのも、つかの間の夢となってしまうのでしょうか。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.107(2007年10月01日発行)」に掲載されたものです。

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