シンガポールのビジネス情報サイト AsiaX社説「島伝い」TOPなぜKYになってしまうのか

社説「島伝い」

2008年3月17日

なぜKYになってしまうのか

前回も取り上げた「空気読めない」という意味の「KY」、この言葉が今の日本で幅を利かせているのは、本来和を尊ぶ日本人が持つ、場を乱すことへの恐れが根強くあることの表れとも考えられます。みんなと違うことを言うと、それこそ「空気読めない」と外されてしまうのではないか、あるいは、自分ひとりに責任が降りかかるのではないか、と思ってしまうと、つい口をつぐんでしまいがちです。しかし、後で大きな問題が起きた時、「あの時言っておけば」と後悔することの方が、むしろもっと怖いことです。また、どんなに良い意見やアイディアを持っていても、口に出して言わなければ誰も理解できず、結局何も持っていないのと同じことになってしまいます。
もうひとつ考えられるのが、非言語コミュニケーションが苦手な人達の増加。普段は無口で大人しいのに、携帯やパソコンでのメールやチャットなど、文字でのコミュニケーションになると生き生きとした言葉を発し、自分の気持ちを表現できる、という人が増えているように感じられます。裏を返せば、直接人の顔を見て言葉を交わす、つまり空気を読みながらのコミュニケーションが下手になっているということ。表情やしぐさ、目の動き、声の調子、身振りなどで気持ちや考えを伝える、あるいは察する、というスタイルでの情報のやり取りが苦手で、億劫にさえなっている可能性があります。やらなければどんどん下手になるのは自明のこと。空気も読めなくなる一方です。

 
かつての日本のように、その社会に属するメンバーが共通に知っていることが多い社会では「以心伝心」も通用しますが、共通理解がない、つまり異文化を持つ人に対しては通用しません。相手にわかるように自分の考えを伝え、相手の文化や考え方を理解するためのスキルが必要になります。言葉が通じなければ、頼りになるのは非言語コミュニケーション力。にもかかわらず、非言語コミュニケーションのスキルが低いまま、グローバリゼーションがどんどん進む世界に放り出されてしまったら、その行く末は……。

 
KYなんて言葉が日本では流行ってんだ、とこの現象を笑ってるだけで済ませてはいけない気がしてなりません。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.118(2008年03月17日発行)」に掲載されたものです。

おすすめ・関連記事

シンガポールのビジネス情報サイト AsiaX社説「島伝い」TOPなぜKYになってしまうのか