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社説「島伝い」

2016年9月19日

事実と異なる情報の可能性

シンガポールには、日本ではあまり目にすることのない種類の花や樹木が数多くあり、南国ならではの色鮮やかさで我々の目を楽しませてくれます。なかでもシンガポールの花として有名なのがラン。国花となっているバンダ・ミス・ジョアキムは、植物学上の名前はパピリオナンセ・ミス・ジョアキムと変わったものの、従来からの名称で多くの人に親しまれています。

 

このランは、1893年にアルメニア系の園芸家として知られたアグネス・ジョアキムさんの自宅の庭で異種交配されたものですが、アグネスさんの手による人工交配で誕生したとする説と、自然交配によるものという説が数十年前からさまざまなところで混在していたようです。アグネスさんの血縁者であるリンダ・ロックさんは、今年3月に植物園を訪れた際、「アグネスさんの庭が発祥の花」とだけ書かれた説明文に驚き、さらに自然交配説が複数の公的機関のウェブサイトなどで掲載されていることを知って、アグネスさんの業績をきちんと認めてもらいたいと自ら調査。その結果を関係当局へ提出したところ、バンダ・ミス・ジョアキムはアグネスさんの人工交配によって誕生したランであることが当局に認められ、ニュースとしても報じられました。

 

国や行政機関などが公表した内容が、事実と異なることが後から判明するのは珍しいことではありません。しかし、我々は公的機関からの情報を正しいものとして受け取ってしまいがちです。同様に、日頃から信用している媒体や人物からの情報であっても、事実と異なる内容が含まれる可能性はゼロではありません。もちろん、情報を発信する側が内容の正確性を担保できるよう努めるべきであるのは言うまでもありませんが、それでもなお、一つの情報源を基に判断して次の行動を起こすのではなく、整合性をチェックしたり、複数の情報に照らし合わせたりと、正しいことを裏付ける手間を惜しむべきではないでしょう。そうすることで、誤情報に振り回されたり、うっかり誤ったことを伝えて相手に迷惑をかけたりする事態を避ける方が、結果的にははるかに効率的です。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.310(2016年9月19日発行)」に掲載されたものです。

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