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社説「島伝い」

2008年10月20日

ボールの投げ方・受け方

野球のボールとグローブを使って、2人で代わる代わる投球・捕球を繰り返すキャッチボール。和製英語ですが、この表現は日本語の中で広く使われていて、野球以外にもことばや情報のやり取りなど、私たちは普段の生活や仕事の中で日々「キャッチボール」を行っています。

 
ボールを投げても返ってこないと、投げた方は「なぜ返ってこないのだろう?」と思うでしょう。その相手は、ボールが思わぬところに飛んできて捕球できず、「なぜそんな投げ方をするんだろう?」と思っているかもしれません。

 
今、日本で大相撲の八百長疑惑裁判が行われています。その中で、被告側代理人に「故意による無気力相撲はないということですか?」とボールを投げられ、証人として出廷した北の湖前理事長が「私はないと思います」と返したことが取沙汰されています。ほんの些細なひとことですが、そんなボールを返された方はなぜ言い切らないのか、と不信に思うでしょう。さらに、かつて理事長だった人の発言であることを考えれば、証言台で「八百長はない」と言い切った朝青龍をはじめとする力士達や相撲ファンはどう捉えるでしょうか。「ありません」と言い切れる状況にあったにも関らずこの表現を使ってしまったとしたら、これは返球ミスと言わざるを得ません。

 
うまくキャッチボールするには、相手にどんな球を投げるのがいいのか、どんな投げ方をすればうまく続くか考える必要があります。わからなければ、相手にきいて教えてもらう。でも「わからない」「教えてください」と言えない人も多いものです。分からなくても後でネットで調べれば良い、という姿勢も最近良く見かけますが、これも危険。分からなかったことが局所的なことであればそれで済むかもしれませんが、話の本質に関わることであれば、何を調べるべきかも誤る可能性があります。

 
人との会話において、キャッチボールがうまく続くように相手の立場に立って考え、わからなければきいてみて自分と相手の間の理解のズレを修正していく。互いにそういう考えを持つことが今改めて必要なのではないでしょうか。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.132(2008年10月20日発行)」に掲載されたものです。

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