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社説「島伝い」

2016年9月5日

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自動車が無人で街中を走行するというのは、以前はアニメやSFなどでしかありえませんでした。人間が自動車学校や教習所で何時間もかけて学び、その後何年もかけて習得する運転技術をロボットが持ち、一般の道路でも安全に自律運転できることなどは漫画の世界だけだと当時思っていた人がほとんどではないでしょうか。しかし、その日はもうすぐそこまで来ているようです。
先月、ワンノース地区限定で自律走行車によるタクシーサービスの試験プロジェクトが開始され、注目を集めました。同プロジェクトを実施しているのは、自律運転車向けソフトウェア開発のヌートノミー社で、米国マサチューセッツ工科大学の研究者2名が3年前に設立したスタートアップ企業。2009年から研究に取り組んでいるグーグルや、米国で同様の試験プロジェクトを今月開始予定のウーバーなどに先駆けての世界初の試みとなりました。利用できる一般客は、現時点では少数の招待者のみですが、数ヵ月内に数千人に拡大するとのことです。
自律運転車の公道での走行がシンガポール政府から認可されているのは、8月末時点ではヌートノミー社のみですが、くしくも、8月21日の建国記念日大会において、リー首相が配車アプリの台頭と既存タクシー業界の例を挙げ、ビジネスモデルの変化を受け入れるとともに変化に対応できるよう支援する、という政府の方針を示したばかり。早くもその一端が実現された形になったようです。
シンガポールでも少子高齢化に伴う労働人口の減少が大きな社会問題の一つとなっていて、少し前までは外国人の労働力を呼び込むことが主な解決策になっていました。しかし最近はさまざまな分野でロボット技術の導入が積極的に進められ、新たな選択肢になりつつあります。時代の移り変わりの中で、選択肢を増やすことで変化に対応する姿勢は、企業や個人にとっても参考になりそうです。そして、ロボット技術という選択肢が増えることでビジネスや暮らしがこれからどう変わっていくのか、世界で誰よりも早く自分の肌で感じることになるのは、我々を含めシンガポールに住む人々なのかもしれません。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.309(2016年9月5日発行)」に掲載されたものです。

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