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社説「島伝い」

2009年6月15日

若手、育ってますか?

昨年プロ復帰したテニスプレーヤーのクルム伊達公子選手が、今月22日に開幕するウィンブルドン選手権に出場することになりました。10代の頃から天才といわれた彼女の実力、強靭な精神力は本当に素晴しいものです。しかし、10年以上のブランクを経て復帰した大ベテランが日本のテニス界を引っ張っている現状に、若手プレーヤーで今の彼女を超えられる選手はいないのだろうか?との疑問をおぼえてしまいました。

 
スポーツに限らず、他の分野においても若手が育っていないと感じる場面が近年よくあります。その原因のひとつに、終身雇用・年功序列の崩壊があるのではないでしょうか。

 
かつて多くの企業の人事制度は、社員が定年まで勤務することを前提とした終身雇用・年功序列型で、個人に経済的安定と人生設計のしやすさをもたらした反面、その弊害も指摘されていました。しかし、バブル崩壊後の大リストラで終身雇用が崩壊。成果主義の導入が進んだこともあり、長く働いているだけで高いポスト・高い給料が手に入る保証はなくなってしまいました。

 
また、以前は、新人指導にあたる年代、中堅クラスを育てる年代などがおよそ決まっていて、入社後数年は年次にあわせた社員教育や指導を受け、徐々に年次が上がるにつれて今度は下の代を指導する、というシステムができていました。しかし、成果主義の元では、上の人間も下の人間と競争しなければならず、教えることも少なくなります。教えてもらって成長した経験を持たない人間が上の立場になっても「自分の時も誰も教えてくれなかった。お前も自分でどうにかしろ」となってしまうでしょう。

 
現代はビジネスを取り巻く環境の変化が速くかつ著しく、自分が覚えたことだけでは今の若い世代が仕事をするには不十分です。しかし、経験に基づく判断の仕方、仕事の進め方など伝えるべきことも多々あるはずです。自分たちがこれまでに築き上げてきたものを、次世代に上手くバトンタッチして持続的に成長させていくためにも、上の世代は次世代の育て方を、若い世代は上の世代からの学び方を、それぞれ真剣に考える必要があるのではないでしょうか。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.147(2009年06月15日発行)」に掲載されたものです。

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