シンガポールのビジネス情報サイト AsiaX社説「島伝い」TOP拙劣な情報伝達の罪の重さ

社説「島伝い」

2011年4月4日

拙劣な情報伝達の罪の重さ

シンガポールの地元メディアでもここ数週間は連日のように日本の震災関連ニュースが大きく報じられています。特に目に付くのは福島第一原子力発電所の事故による放射能汚染に対する懸念。今号の記事にもあるように、シンガポールでは福島、茨城、栃木、群馬県産の牛乳、乳製品、野菜、果物、海産物、肉の輸入が3月23日より停止されています。同様の動きは米国、豪州、香港、インドネシアなど世界各国で見られます。

 
また、輸入停止対象以外の地域で生産された食品まで「日本産」というだけで敬遠する動きが広がっており、シンガポール国内の日本食レストランでは軒並み客足が減って、半減したというケースも。さらに、従来であれば日本からシンガポールに到着したその日のうちに届いていた食材が、3日以上検査のために足止めされるといったケースも出ています。鮮度が命ともいえる食材の輸入には致命的で、日本からの食品を取り扱う卸業者にも深刻な影響をもたらしています。

 
「日本からの食材は放射能汚染の危険性がある」との懸念を世界各地の消費者に抱かせている大きな原因のひとつに、原発事故発生直後からかなり長い間情報伝達が不十分であったことが挙げられます。何が起きているのか、どこにどう影響するのかといった状況が正確に掴めなかったことが、多くの人々をますます疑心暗鬼にしたのではないでしょうか。

 
情報は開示すれば良いというものではありません。例えば各地の放射線量の測定データをリアルタイムで一般に公表する、といったものではまったく不十分です。情報を受け取る側にわかる形にして伝え、相手が正しく理解できなければ意味がありません。情報を正確かつわかりやすい形で伝えるというのは、まさにメディアに求められるもの。弊紙もそのことを肝に銘じなければと改めて思っています。
また、情報提供元である日本政府や東京電力にも、正確な情報が日本国民だけでなく全世界の人々に理解できる形できちんと届くよう、メディアを介して伝えることを強く望みます。拙劣な情報伝達の罪の重さは計り知れません。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.186(2011年04月04日発行)」に掲載されたものです。

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