シンガポールのビジネス情報サイト AsiaX社説「島伝い」TOP価値観の違いがもたらす結果

社説「島伝い」

2010年11月1日

価値観の違いがもたらす結果

今年を振り返るのは少々早いのですが、シンガポールでは今年前半に2つのカジノ総合リゾートがオープン、8月には史上初のユース五輪が開催され、9月には3度目となるF1グランプリ開催と、世界的に注目される大きなイベントがいくつもありました。いずれもここ5年以内に正式決定され、実行されてきたことで、国としての勢いが改めて感じられます。従来の「きれいで安全だけど退屈な国」というイメージは変わりつつあります。

 
一人当たりGDPでは数年前から日本を抜いてアジア1位、個人レベルでも経済力が上がっています。贅沢なブランド品を所持し、高級レストランでの食事を楽しむ人が増えていますが、一方でホーカーセンターは相変わらずの盛況。すぐ横にある駐車場にはベンツやBMWなど高級車が並んでいたりします。また、ERPのゲートの手前には、課金時間の終了を待つ車が道路脇に列をなしています。日本人は、その列を横目に「待つ時間がもったいないから2ドル払って通行する」ことを選択することが多いようです。しかし、ローカルの人たちの多くは「15分待って2ドル払わずに済ませる」ことを選択するようです。価値観の違いが端的に現れていて面白い現象だと思います。

 
ユース五輪の成功は世界各国から賞賛されましたが、一方で開催費用が当初の見積りを大きく上回ったことが国会で問題視され、スポーツ相が見積りの誤りを認めて釈明。また、F1グランプリの今後の開催については、F1の父と言われるエクレストン氏からも永続開催を熱望されながら、政府は「主催費用や経済への波及効果などを詳細に研究し、契約を延長するか決定する」としています。内容的には成功し、多くの人を喜ばせたイベントでも、費用が見合わなければ見切るという現実的な対応ができるシンガポールの強さがここでも感じられます。

 
情に厚いのは日本人の良い面であり、失ないたくないことのひとつですが、情に流されて時に合理的でない判断を下してしまう傾向があること、現実的な判断を下す結果、もたらされるプラスの面があることを学ぶには、シンガポールは最適な場所といえるかもしれません。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.178(2010年11月01日発行)」に掲載されたものです。

おすすめ・関連記事

シンガポールのビジネス情報サイト AsiaX社説「島伝い」TOP価値観の違いがもたらす結果