シンガポールのビジネス情報サイト AsiaX社説「島伝い」TOP87分の6が持つ意味

社説「島伝い」

2011年5月16日

87分の6が持つ意味

5月7日に5年ぶりとなる総選挙が行われ、与党・人民行動党(PAP)が81議席、野党が6議席をそれぞれ獲得しました。与党が9割以上の議席を占め圧倒的勝利のように見えますが、従来与党に有利とされてきたグループ選挙区での史上初の勝利が含まれた野党の6議席獲得は、歴史的な出来事でした。

 
グループ選挙区では、平均5名の候補者がチームを組んで選挙戦を戦います。数的に不利な野党勢はなかなか対立チームを立てられず、現在の選挙区割りに近い形になった1997年の総選挙以降前回までは半分以上のグループ選挙区が無投票でした。今回はひとつの選挙区を除いて全選挙区で投票が行われ、ある意味今までで一番選挙らしい選挙になりました。

 
選挙期間中にも新しい動きが見られました。野党の選挙演説集会には他の選挙区からも人が集まるほどで、その熱気は今までにないものでした。また、インターネット上での選挙運動が事実上禁止されている日本と違い、シンガポールではポッドキャストやブログなども利用可能。選挙直前の4日夜にはリー首相がフェイスブック上で有権者とのウェブチャットに応じて話題になりました。

 
有権者の25%以上を21歳から35歳の若い世代が占めていたことから、与党としても若年層へのアプローチが必要という認識はあったようです。ただし、その若年層の多くは、中~低所得者で、現与党の強力なリーダーシップの下で国としては豊かになったものの、自分達がその恩恵を受けているという実感をあまり持てずにいる層。選挙後のジョージ・ヨー外相の発言にもあったように、若年層の不満は、与党の想像よりはるかに大きかったのかもしれません。

 
今後の総選挙は、与党にとってさらに厳しい戦いが予想されます。しかし、選挙をいわば義務化してきた(投票しなければ選挙権没収や再取得時のペナルティが課される)おかげもあって選挙に対する国民の関心は非常に高く、次回以降も興味深い選挙戦になるでしょう。それと同時に、しらけた選挙ばかり繰り返している日本の行く末が気がかりです。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.189(2011年05月16日発行)」に掲載されたものです。

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