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社説「島伝い」

2011年7月4日

今だから下せた判断

東日本大震災にともなう東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、世界各国で原発建設計画の中止や、原発廃止の動きが出ていますが、日本でも原発建設計画の見直しにつながるひとつの判断が下されました。
中国電力は山口県上関町に原発建設を計画、2009年10月に建設予定地の埋め立て免許を取得していました。ただし、反対派の運動などで埋め立て工事はほとんど進まず。免許の有効期間は3年で、工事続行のために免許は延長と見られていた中、山口県知事が「延長申請があっても認められない」との見解を6月下旬に県議会代表質問への答弁で示しました。
上関町では30年ほど前から過疎化や高齢化の問題に悩まされ、町の財政安定や産業基盤整備、福祉向上などを目指して原発推進策が取られてきました。一方で原発反対派の市民団体などが反対運動を繰り広げ、文字通り町は二分されてきました。ただ、国からの交付金や中国電力からの寄付金などが計画段階からもたらされて町の財政が潤ってきたことも事実。町の苦しい台所事情を考えれば原発推進やむなし、というところで、従来であれば県としても今回のような判断を下すことはなかったと推測されます。大震災をきっかけに出てきた新たな流れのひとつといえるでしょう。「安全でクリーンなエネルギー」として推進ありきだった原発に関しても、福島での被害状況を日本国民はもちろん世界中が目の当たりにして、運転中の原発はもちろん、計画中のものに関しても改めて議論し、安全面を再検討しようという動きが活発化しています。
多大な犠牲を伴い、大きな痛みを日本に与えた大震災ですが、これは、便利な現代の生活に慣れきっていた我々に対する警鐘だったと受け取っても良いのかもしれません。物不足を恐れたパニック買いが起きたり、経験したことの無い不自由さに直面したことで助け合ったり……物が豊かで当たり前、インフラがあって当たり前、というままで突き進んでいたら、もっと恐ろしいことになっていたかもしれません。この警鐘が、日本の国政にもきちんと響いてくれれば良いのですが。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.192(2011年07月04日発行)」に掲載されたものです。

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