シンガポールのビジネス情報サイト AsiaX社説「島伝い」TOP真の海外経験を積めるか

社説「島伝い」

2016年6月20日

真の海外経験を積めるか

海外に3ヵ月以上滞在あるいは永住している、いわゆる海外在留邦人の数が昨年10月の時点で131万人を超えたことが明らかになりました。外務省の『海外在留法人数調査統計 平成28年要約版』によると、前年比2万7,000人近い増加で、統計を開始した1968年以降最多とのことです。

 

シンガポールの在留邦人数は、同じく昨年10月時点で3万6,963人。過去5年間で1万人以上増えました。企業の社員などとその家族が約2万8,000人と4分の3を占めています。留学や研究目的での長期滞在者も多い北米やヨーロッパと比較すると、アジアや中南米、中東などは企業関係者の割合が圧倒的に高いようです。

 

海外で仕事をする日本人の増加は喜ばしいことですが、もっと増えても良いのでは、というのが正直なところです。海外に出ることで、日本にずっといてもなかなか気付けない、外から見て初めて分かることがたくさんあります。

 

海外で仕事をしていると、日本のルールが通用しない場面が少なくありません。予測のつかないことや、あり得ないと思うようなことが当たり前のように起きます。そこで戸惑ったり、日本の良い面・悪い面に気付いたり、逆に海外の良い面に刺激を受けたりすることが、貴重な成長の機会にもつながります。

 

一方、海外在留邦人が増えたことで、特に都市部では仕事の相手は日本人ばかり、余暇も日本人の友人・知人に囲まれて過ごす、といったことが可能になりました。しかし、そのように場所を海外に移しただけで、日本に居たころと何ら変わりないことをしているのでは、海外経験を積んでいることにはなりません。特にシンガポールのように、日本のさまざまな商品やサービスが簡単に手に入る恵まれた環境では、海外にいることさえも忘れてしまいがちです。

 

自分から積極的に現地の人達とも交わり、考え方や文化の違いを感じたり、時には摩擦も経験しながら切磋琢磨して成長できるかどうかは、結局本人次第です。海外在留邦人数の増加と同様、あるいはそれ以上に、成長のチャンスを生かして海外で経験を積める日本人が増えていくことを強く望みます。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.304(2016年6月20日発行)」に掲載されたものです。

おすすめ・関連記事

シンガポールのビジネス情報サイト AsiaX社説「島伝い」TOP真の海外経験を積めるか