シンガポールのビジネス情報サイト AsiaX社説「島伝い」TOP「人材政策から見えるもの」

社説「島伝い」

2016年6月6日

「人材政策から見えるもの」

シンガポールの人材開発省、全国経営者連盟(SNEF)、全国労働組合会議(NTUC)の政労使3者で構成するパネルが、余剰人員が出た際の解雇のあり方について改定指針を発表しました。シンガポール人の育成により力を入れるよう企業に求めてきたシンガポール政府の意向にも沿うものです。

 

シンガポールでは、雇用や賃金に関して政府と企業、被雇用者の3者が協調して取り組んでいます。その代表例の一つが全国賃金評議会(NWC)で、賃金に関するガイドラインを毎年策定し、5月に公開しています。また、企業の業績が悪化した際に予め労使で合意した範囲内で賃金を調整し、企業と雇用の両方の維持を図る月次可変給(MVC)の導入も推進しています。

 

一方、外国人を多く雇用している企業にとっては、シンガポール人の育成が強く求められている昨今の流れや、ここ5~6年ほどで進んだ就労ビザ発給基準の厳格化、外国人労働者雇用税の引き上げなどもあって、やりづらさがあるのは否めません。就労ビザに関しては、年齢や職歴が近くても出身大学によって申請から発給までの期間やビザ発給が認められる給与額などにも違いがあり、外国人の採用を難しく感じさせています。

 

しかし、世界的にも著名な大学の卒業者はやはり能力の高い人材が多く、シンガポールへの貢献も大きく期待できます。国としての生き残りをかけて優秀な人材を常に求め続けているこの国にとっては、必然の判断とも言えます。有名大学以外を卒業した外国人であっても、より高い賃金など企業にとって負担が増えても雇いたくなる実力やスキルのある人材については、就労ビザが発給される可能性があります。加えて、これまで外国人頼みだった企業にも変化が見られ、現地の人材を育成して自社のビジネスを成長させていくにはどうすれば良いか、より真剣に考える傾向にあるようです。

 

目先のことだけでなく国の将来を見据えた政策を打ち出し、前進を続けるシンガポールのすごさが種々の人材政策からも感じられます。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.303(2016年6月6日発行)」に掲載されたものです。

おすすめ・関連記事

シンガポールのビジネス情報サイト AsiaX社説「島伝い」TOP「人材政策から見えるもの」