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社説「島伝い」

2012年3月19日

恩返しのためにも

今月11日で東日本大震災の発生からちょうど1年が経ちました。日本国内だけでなく、海外に住む日本人にとっても、この日は哀悼の日となりました。

 
東京の国立劇場で行われた政府主催の追悼式には、心臓の冠動脈バイパス手術を受けて1週間前に退院されたばかりの天皇陛下も皇后陛下と共に出席され、哀悼のお言葉を述べられました。また、式辞で野田首相が「復興を一日も早く成し遂げる」、「震災の教訓を未来に伝え語り継ぐ」、「助け合いと感謝の心を忘れない」の3つを誓うとしました。日本という国として、ぜひそうであってほしいと切に願います。

 
ただ、同じ式辞の中で野田首相が述べた「海外からの温かい支援に『恩返し』するためにも、国際社会への積極的な貢献に努めていかなければなりません」という言葉が、少々引っ掛かりました。もちろん、震災後に海外からも様々な形で支援を受けたことに対する恩義は絶対忘れてはなりませんし、その恩返しができるに越したことはないのですが、日本の国際貢献というと、これまで様々なところで「金のばらまき」と揶揄されているように、円借款や政府開発援助(ODA)など金銭的なものに偏りがちです。それが目当てでの支援というケースもまったく無いとは言えませんが、東日本大震災の被災者支援や復興支援に差しのべられた手の多くは、本当に困っている人たちを助けるためでしょう。

 
それよりもまず、この大震災で国として経験したことをしっかり検証し、そこから得た教訓や大災害発生時の対応策、原発の事故防止策などを形にして国内外に伝えて、自分達のシステムも改善していくことが、日本の歴史的使命ではないでしょうか。

 
日本での昨年の自殺者数が3万513人と1998年以来14年連続で3万人を超えたことが報じられましたが、その根底にあるのは、日本の社会の住みにくさや生きづらさであり、自殺者数の高止まりはその警告とみなして良いでしょう。

 
恩返しのためにもまずは、日本国内の現状を踏まえて、足元のことをしっかり固めるべきです。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.208(2012年03月19日発行)」に掲載されたものです。

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