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社説「島伝い」

2012年5月21日

事故の波紋

5月12日未明に発生したブギスでの交通事故は、青信号に変わって右折しようと交差点の中を進んでいたタクシーに、赤信号にも関わらず高速で進入してきたフェラーリが激突、タクシーのドライバーとその乗客の命を奪い、フェラーリの運転手も死亡、他に2名が大けがを負うという惨事となりました。

 
事故に遭ったタクシーの隣にいた別のタクシーに搭載されていたカメラが事故の瞬間をとらえていて、その映像がインターネット上でも公開されていますが、フェラーリの方にブレーキを踏んだ様子はまったく見られません。事故原因については、無謀運転、信号の見誤りなどさまざまな憶測も飛び交っているようですが、中にはタクシーが注意して交差点を進んでいれば事故は避けられたという意見もあり、それに対する反論が多数寄せられたりもしています。

 
フェラーリを運転していたのは数年前に中国からシンガポールへ移住してきた若くて裕福な投資家であったことから、外国人移住者に対する国民の不満が再燃するきっかけにもなってしまったようです。2000年代半ばから後半にかけて、短期間に外国人居住者が増加した結果、国民から職を奪っている、公共交通機関の混雑や不動産を筆頭とした物価の高騰を招いている、といった外国人に対する不満が国民の間から上がるようになりました。政府も国民の声に応えるべく永住権(PR)付与数の抑制や、就労パス(EP、Sパス、ワークパーミット)発行基準の厳格化などを実施して、国民との間の溝を埋める姿勢を示してきましたが、今回の状況を受けて、何らかの形でさらなる対策を取ることになるでしょう。単なる交通ルールの厳格化や飲酒運転の取り締まり強化といった枠を超えたものになる可能性も十分考えられます。

 
今のまま堅実に成長し続けることで、10~15年後には富裕国の仲間入りをするだろうと見る向きもあるシンガポールですが、国としての手腕が問われるところかもしれません。

 
最後に、今回の事故の犠牲になった方々に心よりお悔やみを申し上げます。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.212(2012年05月21日発行)」に掲載されたものです。

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