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社説「島伝い」

2012年7月2日

断片に振り回されない

今号6ページの記事「ギリシャ問題、最も影響を受けるのはシンガポール」の見出しに思わず目が留まりました。というのも、5月にウェブに掲載した記事の見出し「ギリシャ財政危機、影響はわずか」に覚えがあったからです。一見まったく逆のことを言っているように見えるこの2本の記事は、前者が欧米系銀行のエコノミスト、後者が地元シンガポールの銀行のエコノミストによる見解です。本文を読んだ方はお気づきでしょうが、実は両者の見通しが真逆というわけではありません。前者は最悪のシナリオを想定した場合のことを、後者は最悪のシナリオにならない限りは、という話をしているだけです。

 
さまざまな情報を誰でもすばやく簡単に手に入れられるようになったことは、ビジネスにおいても非常に有益です。しかし、情報が氾濫し過ぎて、かえってものごとの本質が見えづらくなっている部分もあります。手にした情報をそのまま鵜呑みにせず、複数のソースに当たったり、可能な限り実際に自分の目で見て、肌で感じる手間を惜しまないことはやはり大事です。

 
一般的に、ものごとは成功すれば良しとされ、失敗すれば悪いことと捉えられます。もちろん、上手くいくに越したことはありませんが、失敗して初めてわかることも多いもの。判断の悪さが招いた失敗であれば、その原因を分析し、判断の仕方を修正できます。しかし、例えばシンガポール国外にいる人が、冒頭の見出しだけを見て「ギリシャ問題の影響を一番受けそうなのか」とシンガポールでのビジネスを回避するとしたら、あまり賢明な判断とはいえませんが、行動する前に踏み止まってしまった本人は判断のまずさに気付くこともないでしょう。やや極端な例ですが、似たようなことは実際によくあります。

 
ビジネスにおいてはとかく迅速さが求められがちで、スピードを追求するあまりに他人から聞いた話だけを元に判断したり、自分で十分な見極めをせずに結論を急ぐケースがままあります。目の前の断片的な情報だけではものごとの本質を見誤る可能性があり、そのリスクは海外という場ではなおさら高くなることを認識しておく必要があります。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.pos(2012年07月02日発行)」に掲載されたものです。

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