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社説「島伝い」

2013年6月17日

定石破りが持つ力

今号10ページの記事「JCからポリテクニックへの転校が増加」にあるように、シンガポールでも日本と同じように「いい仕事に就くには大学に行くべき」という考えが根強くあります。特に親世代には顕著なようです。

 
ここでいう「いい仕事に就く」とは、名の通った大企業に入ることや、公務員になることが一般的。親が子供に「勉強しなさい」、「いい高校に行きなさい」、「大学だけは出ておきなさい」と言い聞かせ、ある程度方向付けようとするのも、かわいい我が子には幸せになってもらいたいと願うからでしょう。

 
かつて子供達にとって、情報は両親や学校の先生、周りの大人達などからもたらされるものでした。テレビや本、雑誌で得る情報も、結局は大人の手によって編集されたものです。しかし、20年近く前からインターネットの利用が一般家庭にも広まり、携帯電話の普及などでメディアも多様化、子供達でも生の情報を手にすることができるようになりました。その功罪はいろいろと言われていますが、従来であれば成績が良いというだけの理由でジュニアカレッジに進学し、大学を目指していたような子供達が、関心のある特定分野について学ぶため、敢えてポリテクニックへ転校するという決断を下せるようになったのも、大人達を介した情報だけでなく自分で得た情報を基に判断できる環境が整ってきたことが影響していると考えられます。

 
日本でも、先進的な取り組みを行っている工業高校や農業高校を自らの意志で選択して意欲的に学び、卒業後は社会に出て高い専門能力を発揮している例が少しずつですが増えています。その背景には子供達が早い時期から様々な情報に触れることができる今の社会環境があり、自分の進むべき道を見つける機会も多くなっていることが考えられます。

 
今後この流れが拡大すれば、学歴だけなく、本人が持つスキルを見て優秀な人材を発掘し、認めることが国や企業にもますます求められることになるでしょう。今まであまりなかった流れですが、前に向かっている良い流れでもあります。定石を破れるようになった若い力に期待したいものです。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.236(2013年06月17日発行)」に掲載されたものです。

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