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社説「島伝い」

2014年6月2日

「イメチェン」が秘める可能性

日本ではかつて建設業界は男性の職場というイメージが強くありました。また、現場の作業は力仕事できつく、泥やほこりにまみれることもしばしば。高所や重機での作業など危険も伴うことから「3K」と呼ばれる業界のひとつになっていました。業界のイメージが変わり始めたのは1990年代に入ってから。女性が現場監督や設計などで活躍するケースが増え、男性だけでなく女性も働く業界へと変わってきました。

 
シンガポールでも、建設業界は圧倒的に男性が多く、しかも作業現場にいるのはほとんどが外国人労働者、という状況が長く続いています。この10年近く飛躍的な経済成長を遂げ、一人あたり名目GDPで既に日本やアメリカを上回って世界トップ10の常連になりつつあるこの国で、建設業は経済を支える大きな柱のひとつであるものの、就職先として人気が高いのは、同じく経済成長にも大きく寄与している金融業など。建設業には国内からは人材が集まりにくく、ここ数年政府が外国人労働者の雇用制限を強化していることに対して緩和を求める声が強まっていました。

 
先日、建設業管理庁(BCA)が、建設業合同委員会と共に待遇や労働慣行の改善などの業界改革を進めるべく、覚書を交わしたことが報じられました。今回の覚書は、外国人労働者の雇用制限は継続するという国の方針を踏まえて、建設業をシンガポール国民にとって魅力ある業界に変えようとしているのが大きなポイントです。今後5年間かけて待遇の見直しやフレックスタイム制導入、生産性の高い工法の導入など様々な面での改革が図られ、女性の建設業就労も奨励するとのこと。

 
BCAと建設業界のこの取り組みが成功すれば、イメージチェンジで建設業の魅力が高まるだけでなく、国内で人材が集まりにくかった他の業界や職種へも影響を及ぼすことが十分考えられます。各業界のイメージが変われば、人々の仕事に対する考え方にも変化が起きる可能性があります。BCAと建設業界の今後5年間の取り組みは、シンガポールという国をまた一歩前進させる大きな力になるかもしれません。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.258(2014年06月02日発行)」に掲載されたものです。

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