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社説「島伝い」

2015年1月19日

進出と撤退

ここ1年ほど、日系大手企業の撤退が地元紙のニュースなどで報じられているのを目にします。大企業だけでなく中小企業も積極的に広報活動を行う進出時とは異なり、撤退についてメディアが伝えるケースは限定的です。しかし実際には、中小も含めると日系企業の撤退は決して少なくないとみられます。
撤退の理由として、現地のニーズとの不一致がよく挙げられます。進出前からある程度予測可能なことなので、本当の理由は別にあると推測されますが、残念ながら部外者にはなかなかわかりません。ひとつ言えるのは、海外という日本とは異なる土俵では、想定外のことが必ず発生するということ。綿密な市場調査などを事前に行い、十分に戦略を練り上げ、準備万端で進出してきた企業であっても、予定の変更や延期を余儀なくされることが多々あります。シンガポールでの事業が危機的な状況に陥った時に、自分達の基本線は守りながらも、現地でのニーズを察知して適切かつ迅速に対応できるかどうか、これは本当の意味でのグローバル化ができているかどうかの違いとも言えそうです。日本を土台に考えるか、あるいは現地を土台に考えるかでも、対応は大きく異なります。
海外に進出していても、物事を決めるのは常に日本の本社、顧客は日系企業ばかり、人付き合いも日本人ばかり、というのでは、場所を日本から海外に移しただけで、日本国内で行っていることと何ら変わりありません。一方、海外での事業を成功させ、成長を続けている、つまりグローバル化が進んだ企業や人々を見ていると、その多くは地元の人々とも積極的に交流し、顧客やパートナーにも地元企業が多数を占めています。
シンガポールで活動する我々にとって、日系企業の進出は喜ばしい点も多くありますが、進出が増える一方で、撤退も相当数あることも認識する必要があります。なぜ撤退という結論に至ったのか、シンガポールで事業を成功させ、持続的に成長させるためには何が必要なのか、我々もまた考えるべきでしょう。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.273(2015年01月19日発行)」に掲載されたものです。

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