シンガポールのビジネス情報サイト AsiaX社説「島伝い」TOP許せなくなる理由

社説「島伝い」

2015年2月2日

許せなくなる理由

かつては「常識」とされていたことが、時を経て常識ではなくなる、ということは少なくありません。近年はあらゆることにおいて変化が早いため、次々と新しい「常識」ができる一方で、いつの間にか消えているものもあります。例えば転居時の近所へのあいさつ。もちろん、今でも転居先で小さな手みやげを持って近隣にあいさつをする人はいます。しかし、東京などの都市部ではほとんど見られなくなっており、あいさつがなくても「非常識」とは言い難くなっています。
ビジネスの世界でも同じような変化が起きています。かつては、新規参入した企業が古参企業にあいさつに行き、筋を通すことが当然、とされる業界が多数ありました。シンガポールでも、日本から新しく進出した企業は、まず同業の日系企業へあいさつに訪れることが一般的でした。しかし最近は、そのような形を取らない企業も増えています。
ビジネスの世界では、同じ業界内に存在する企業は競争相手でもあります。互いに公正に競争し切磋琢磨していく上で、企業同士が顔見知りや、親しい間柄である必要はありません。どちらかが業界へ参入する際にあいさつがあったかどうかも関係ないことでしょう。あいさつをする企業もあれば、しない企業もあって良いはずです。
海外では「同じ日本人なのに」「同じ日本人だから」という言い方もよく耳にします。同じことを日本人以外の人がしても気にならないのに、相手が日本人だと不愉快に思ってしまったり、あるいは、日本人というだけで相手を無条件に信用してしまったり、といったケースです。海外生活が長く、異文化への受容性も高いと思われる人でも、そのようなことが意外と見られます。
日本人の行動や考えに腹が立った時、相手が非常識で礼を失している場合もあるでしょうが、単に相手と自分の違いに過ぎず、どちらが良い、悪いというものではないことも実は多いものです。このような場合にも自分のことを冷静に見直す力がある人が、変化の激しい現在でも強く生き抜いていけるようです。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.274(2015年02月02日発行)」に掲載されたものです。

おすすめ・関連記事

シンガポールのビジネス情報サイト AsiaX社説「島伝い」TOP許せなくなる理由