シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOP第2話:海運が担う国際経済と地球環境

Vessel Manager 令官の海事点描

2014年12月1日

第2話:海運が担う国際経済と地球環境

先日ロバートソンキーの近くで素敵なお洋服屋さんを見つけました。店員さんに聞いてみると、綺麗なオレンジ色のTシャツはヨーロッパから、素敵な柄のパンツはアメリカからやって来たのだそうです。少し奮発してしまいました。世界では、現在10万隻近くの商船が運航されており、様々なモノを載せたたくさんの船が、モノを持っている国からモノを必要とする国へ、日々、7つの海を航海しています。国際経済の中で海運はとても重要な役割を果たしています。

 

国際物流を支える高い輸送効率

海運の大きな特徴として、まずその「高い輸送効率」、すなわち、一度にたくさんの荷物を運べる能力が挙げられるでしょう。
例えば、トウモロコシ。日本での年間消費量は約1,620万トンにもなるそうです。このトウモロコシを輸入する場合には、通常、一度に5万トン運べる船を使用しています。単純に計算すると、年間320隻分の量です。大変な数ですね。

 

しかしこれを空輸するとなると、どうなるでしょうか。ボーイング747型を使用する場合、単純計算で年間約1万4,000機分の量になります。これではたくさんの機体を作るか、ひっきりなしに飛行機を飛ばすかしなければ、需要を満たすことはできないでしょう。
飛行機での輸送は例え話ですが、事実、モノの流れが滞れば輸出入国双方の経済が停滞し、そしてそれは国際経済、世界経済へも影響を及ぼしかねません。大量輸送を可能とする海運が、日々の円滑な国際経済を支えていると言っても過言では無いでしょう。

 

島国経済の生命線として

また、日本のような島国にとって海運は、まさに生命線と言えます。
日本は国際貨物輸送量のほとんどを海運が担っており、重量ベースでは全体貨物輸送量の約99.7 %が海上輸送により行われています。

 

例えば、人間の生命に直接関係する、食糧に関する統計を見てみましょう。重量ベースでの海運による輸入割合は、塩87%、砂糖67%、大豆95%、小麦86%、先ほどのトウモロコシに至ってはなんと100%です。
一方で、日本の産業の生命線、製造業についてはどうでしょうか。例えば自動車が良い例ですが、日本から海外の工場へ部品を送り、海外工場で製品を仕上げる(組み立てる)形態を取る場合、部品の輸出ができないとなれば工場のラインが止まり、輸出側と輸入側の双方に大きな不利益をもたらしてしまいます。この他、建築資材や石油、石炭、LNG等のエネルギー資源も、その大半を海上輸送に頼っています。

 

現代の製造業はこうした国際分業がスタンダード。原料調達から1つの製品を作り上げるまでには、地球規模の輸送が発生します。日本のような島国に限らず、シンガポールはもちろんのこと、世界中の国々で海運と国民の生活・経済とは切っても切り離せない関係があるのです。

 

CO2排出量削減の柱「モーダルシフト」

一方、日本のような島国以外でも、近年、地球環境の保護のために輸送手段を切り替える「モーダルシフト」の面からも、海運が注目されています。これまでトラックや鉄道で輸送していた貨物や人を、同一国内の港間を航海する「内航船」での輸送に切り替えることで、輸送で排出される二酸化炭素量を削減しようという動きが進められているのです。
船1隻は、車1台分より多くの二酸化炭素を排出します。しかし、時速60〜100kmで1トンの貨物を1キロ、もしくはマイル運ぶ際に排出される二酸化炭素、すなわち、トンキロ、トンマイルあたりの二酸化炭素排出量で比較すると、船の排出量は車の2分の1となります。これからの国際経済に求められるエコロジーを可能にするのもまた、海運なのです。

このように、海運は私たちが普段何気なく生活する裏にある国際物流、国際経済において欠くことのできない役割を担っています。さらに、サステナビリティ(持続可能性)が求められるこれからの地球・経済環境においても欠かすことのできない重要な手段と言えるでしょう。

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文=令官史子(れいかん・ふみこ)

日本郵船グループのNYK SHIPMANAGEMENT PTE LTDでVessel Manager(船舶管理人)や就航船管理の業務にあたっている。2013年の来星までは、約9年間新造船業務に携わった。
九州大学工学部船舶海洋システム工学科卒業、同大学院都市環境システム工学専攻。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.270(2014年12月01日発行)」に掲載されたものです。

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