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2015年3月16日

技術をお金に変える法〈第5回〉 異分野市場での事業化例①〜技術の見える化〜

1.技術の見える化

完成品ではなく、業務用の組込み製品(部品・モジュール・デバイスなど)の場合は、部品を製造する技術を抽象化して、別の形で「部品技術の見える化」を実施することが有効です。一般のお客様は、すごい技術が何に使われているか、全くわからないからです。特に、下請けの場合には、最終製品を構成する部品はスポットライトを浴びることなく、あくまでも縁の下の力持ちに過ぎません。訴求ポイントは(1)一般消費者にもわかるブランド化、(2)プロが一目でわかる高い技術力の見える化の2点です。

 

金属加工技術の曲げ、溶接、磨きなどの加工技術を使って、全く異分野の家庭用製品で技術力の高さを示した缶プルタブオープナーの事例を紹介します。

 

2.ハイヒール型缶プルタブオープナーの誕生

ハイヒール型缶プルタブオープナー

新潟県・燕三条のクライアント、石田製作所は、金属加工の部品メーカーで、田植え機やATMなどに組み込まれる精密金属パーツが主要製品です。しかし、下請けから脱皮するため、技術資産を棚卸し、カーレースという成長市場に注目しました。

 

まず、同社の強みである「精密加工技術」が一目でわかる試作品として、F1レースカー型の缶プルタブオープナーという家庭用製品を製作しました。そして、カーレースの会場という実験市場でテストマーケティングを行ったのです。テストマーケティング中には、業界関係者のみならず、レースクイーンやキャンペーンガールの女性達の不満や悩み、隠れたニーズの発掘収集を繰り返しました。

 

その結果、ターゲット顧客を、ネイルを施しているために飲料缶を開けづらい女性に絞り込みました。コンセプトは(1)同社の全ての技術の見せる化(2)利便性の高いもの(3)かわいい感性の3点です。女性がワクワクするシンデレラの靴として、4つの金属パーツを37工程かけて精密加工した、ハイヒール型缶プルタブオープナーが誕生しました。

 

3.ブランディング

さらに、成長市場であるネイル業界との本格的な異分野協業が始まります。世界中のネイリストと契約し、かわいい装飾デコを施すビジネスモデルを構築したのです。完全カスタマイズするため、「2週間お待たせ」の商品にしたことで、待つ楽しみというワクワク感も演出しました。

缶と女性を掛け合わせた「CANGAL」という商標名でブランド化も図りました。数多く存在する精密板金メーカーの中で、「『CANGAL』といえば『Ishida Factory』」と言われるブランディングに成功したのです。

 

4.下請けからの脱却

他方でこの商品は、業務用製品を手掛けるプロが見れば、一体成型では出来ない金属精密加工の技術力の高さが一目瞭然です。この「技術の見える化」が、本来の業務用製品の需要を10数%増加させる結果につながりました。しかも、部品の下請けではなく、技術開発の段階からの依頼が全体の20%近くを占めるようになったのです。

 

ネイルを施した女性向け缶オープナーという、一見、全く関係ない家庭用製品が、高い技術力のPRをして企業価値を高めてくれた典型的な事例です。加えて、2013年度の「かわいい感性デザイン賞」(日本感性工学会主催)の最優秀賞を受賞したことで、ますます、企業ブランディングに拍車をかけています。

shimokawa下川 眞季(しもかわ まさき)

株式会社ダヴィンチ・ブレインズ代表取締役・技術士(経営工学)
慶応大学大学院修了後、1982年にソニーに入社。デジカメの電子シャッター特許で全国発明表彰受賞。社内で最高位の特級特許表彰も2度受賞。技術をお金に変える方法や、アイディア発想法を伝授すべく、全国の商工会議所などで講演活動を行っている。

ウェブサイト:shimokawa-kikue.com

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.276(2015年03月16日発行)」に掲載されたものです。

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