O夫人(41)は3カ月前からパートタイムで、事務の仕事を始めました。仕事を通し、友人も数人できましたが、中でも同郷のSさんとは大変気が合い、家族のことまで話すことができる仲になりました。そんなある日、Sさんの一人娘が、中学生の頃から過度の人見知りで、今でも一日の殆どを家で過ごすと聞き、明るいSさんがそのような経験をされていると知り驚きました。Sさんは、これまでにも日本で数回専門家に相談し、異なる治療や投薬なども試されていました。しかし、明確な診断は貰えず「思春期特有の不安定な感情による」と言う説明で、症状はさほど改善せず既に5年が経過し、諦めたわけではないのですが、何をすればよいのか分からない状態でした。
Sさんの娘には、数回の来談でオフィスの環境に慣れ、またカウンセラーとある程度の信頼関係を築き本人納得のもと、適応性や感情の動きなどを理解するための心理検査(BACS-2)を受けてもらいました。これまでの過程と検査の結果、彼女の症状は「対人恐怖症」であることが判りました。
「対人恐怖症」は、実は(殆どの場合)世界でも日本人と韓国人だけに多く見られるもので、いわゆる「Social Phobia:社会恐怖症」と英語で言っているものでは一括りにできない恐怖症です。その理由は、社会的な背景が影響していると考えられています。日本は「和」を重んじる国で、自分の考えや気持ちを押し殺してでも、周囲の人たちと調和を図ることが美徳とされています。この見えない要求が自分の中でエスカレートしていくと「自分がどう思われているのか、自分の存在や言動が何か人を不快にしているのではないか」と不安になり人間関係に対する恐怖心がどんどん膨み、日常生活に支障をきたしてしまうのです。その結果通常は、自分がよく知っている相手、全く知らない相手には症状は現れず、家族の中では一番陽気なメンバーで冗談を言ったり普通に会話ができる場合も珍しくありません。きっかけは「人前での失敗」「恥ずかしい経験」「嫌われていると感じた出来事」などもあり、子どもでもなりえる恐怖症です。
彼女には、自分の状態を深く理解してもらった後で森田療法を取り入れたアプローチで、「そういう恐怖症を持った自分を「弱くても」「失敗することがあっても」ありのままで受け入れ、それを持ったまま、強く生きていこう、という認知を持つようにゆっくりとセッションを進め、同時に「イメージ療法」を通し「苦手な対人状況のイメージを明確に頭に描き、それを何度何度も再現しながら慣れていき、最終的には生活に応用させる」といった段階的な克服計画を立てました。「対人恐怖症」は、程度にもよりますが、定期的にカウンセリングを続けスキルを習得することにより、6~8カ月でで克服できる場合も多いため、希望を持ち忍耐強く続けていくという心構えを持って、行っていきます。
文=山形千尋
Counselling Place LLP心理カウンセラー(カウンセリング学修士・心理学士)
オーストラリア・カウンセリング協会正会員、シンガポール心理学会アソシエイト会員
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