O夫人の33歳の独身の妹が日本から遊びに来ました。妹は2年間付き合っている離婚調停中の恋人のことで悩んでいます。彼は酒飲みで、怒りっぽく、これまで妹に手をあげる事は無いまでも、物を投げたり、暴言を吐いたりすることが時々あり、定職に就く事なく、比較的裕福な両親や彼女から工面したお金で日々過ごしています。姉からすると、すぐにでも別れるべきだと思うのですが、妹曰く「彼は私を愛していると言うし、私がいなくなると彼は屍のようになってしまうのが分かっている。私自身もできることなら助けたい。やはり私も彼を愛しているのだと思う」と言います。O夫人はカウンセリングを勧めました。しかし「問題があるのは彼なので、私が行っても何も変わらない」と言います。しかし、同じ話を繰り返し聞かされ、何の解決策も見つけ出せない妹に業を煮やし、妹を連れて来談されました。
妹はこれまでの経緯と出来事をこと細かく話した後「別れたほうがよいのでしょうか?」と聞きます。カウンセリングは、カウンセラーから助言や意見を聞くものではなく、それぞれに合った介入により、こころの中の自分の声に気付き、より良い決断を自身がする援助をするものです。二回目の来談で、妹は「恋人とこのまま一緒に居たい、できることなら将来結婚したいが、その為には、彼が自分の考えているような男性に変わる必要がある。しかしそれが不可能に思える」ことを明確に認識しました。それではなぜ「変わらない恋人」と居るのでしょうか?「自分を愛していると言い、必要としている男性が他に居るのか自信が無い」のでしょうか「困りながらも彼を助けていることで自身のエゴを満たす」のでしょうか「過去の苦い男性経験、子ども時代の経験より、意識下で償いなどの代償行動を行っている」のでしょうか?彼女は少しずつ自身の中にに未解決の問題(アンフィニッシュド・ビジネス)があることに気が付き始めました。
家族間、恋人間、親子間でのカウンセリングににありがちな先入観として「援助が必要なのは自分ではなく、○○だ」と言うものがあります。人間関係の中で、ある個人が100%問題で、他の人は、それに振り回されて、または悩まされている実際の問題の根本原因とは無関係な人々という構図は有り得ません。多くの場合、家族内で、スケープゴート(身代わりとしての問題者)として扱われるのは、「子ども」や「お年寄り」で、カップル間では、どちらかが完全被害者だと思っています。よって最初から「お互い/家族の問題なので一緒に解決していき、より良い関係を築きたい」、「自分が最初に変わることで、相手も変わることを期待している」とイニシアチブを持って、来談される場合のほうが、比較的にスムーズに改善が進み、良い結果をもたらすことが証明されています。
妹は、滞在中3回のセッションを終え、帰国されました。その後O夫人に「変わらないと思っていた恋人が、日本で一緒にカウンセリングに行く事に同意したので希望を持って暫くやってみたい」と連絡があったそうです。
文=山形千尋
Counselling Place LLP心理カウンセラー(カウンセリング学修士・心理学士)
オーストラリア・カウンセリング協会正会員、シンガポール心理学会アソシエイト会員
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