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法律相談

2015年3月2日

Q.シンガポールにおいて会社の取締役に就任した場合には、様々な義務や責任が課されると聞いています。どんな義務がありますか?また、義務に違反した場合には何かの罪に問われたりするのでしょうか?

シンガポールの取締役が課される「利益相反を避ける義務」

取締役が会社法上負う義務の中でも特に重要な「利益相反を避ける義務」について説明します。まず、利益相反というのは、文字通り、会社と取締役との間で利益が相反する状況をいいます。典型的には、会社と取締役(または、その家族や支配する会社)との間で何らかの取引が行われ、取締役等に利益が生じるケースのことをいいます。

 

また、会社が取締役などに対してローンや保証を提供する行為も利益相反に含まれ得るものとされます。その他、取締役が競合他社の取締役を兼任することも、利益相反にあたるものとみなされます。このように、取締役の行為によって会社が損害を受けるような一般的状況を、広く利益相反と呼び、このような状況を避ける義務を取締役に課したというのが当該義務の概要です。

 

Q:

それでは、取締役は、利益相反にあたる行為を禁止されるのでしょうか?

 

A:

いいえ。利益相反を避ける義務といっても、利益相反にあたる内容を取締役会に対して開示し、承認を得る必要が生じるに過ぎず、逆にこれらの手続きを踏めば、利益相反行為も問題なく行うことができます。一方で、利益相反を避ける義務については、他の取締役の義務とは異なり、取締役の内心の意図や目的といった主観を問わず、形式的な利益相反について必要な手続きを踏まなければ責任が発生することになります。

 

Q:

それでは、取締役が「利益相反を避ける義務」や、その他の取締役の義務に違反した場合には、具体的にどのような責任を問われることになりますか?

 

A:

取締役がその義務に違反した場合には、これによって会社が被った損害または当該取締役が得た利益の額について、会社に対して賠償責任を負うことになります。また、5,000Sドルまたは12ヵ月以内の拘禁といった刑事責任の対象にもなり得ます(会社法157(3))。加えて、会社は、取締役の義務違反に関わるような契約を無効にし、また、財産の回復や補償を取締役に請求することも可能です。ここで注意すべきは、取締役は、(刑事責任を除けば)会社に対してのみ義務を負うのが原則であり、株主、従業員および取引先を含む第三者に対して会社法上の義務を負うものではないということです。

 

Q:

取締役としての義務に違反してしまった場合の責任を考えると、何だか怖くなってきました。取締役としての責任をあらかじめ軽減するような方法はないのですか?

 

A:

定款、または取締役と会社との契約において、取締役の責任を軽減・免除する条項を置くことも考えられそうですが、実はシンガポールではこれらの条項は、会社法上無効なものとされているので意味がありません(会社法172条(1))。シンガポールの実務上は、保険会社の提供する「取締役責任保険」に加入することにより、取締役の義務違反の場合の賠償責任のリスクをカバーする方法が一般的に採られています。ご懸念のとおり、取締役は特別な義務および責任を会社法上課せられていますが、ほぼ形式的に要件の該当性が決まる利益相反取引にさえ注意しておけば、あとは会社の利益のために誠実に職責を果たしている限り基本的に取締役として責任を問われることにはなりませんので、そこまで深く心配することもないと思います。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.275(2015年03月02日発行)」に掲載されたものです。

本記事は、一般情報を提供するための資料にすぎず具体的な法的助言を与えるものではありません。個別事例での結論については弁護士の助言を得ることを前提としており、本情報のみに依拠しても一切の責任を負いません。

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