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法律相談

2012年11月5日

Q.シンガポールでは鞭打ちの刑があると聞いたのですが、今でも本当にあるんですか?

鞭打ちの刑について

本当です。シンガポールには、刑事罰のひとつとして、鞭打ちの刑があり、現在でも実際に執行されています。日本においては、憲法36条で「拷問および残虐な刑罰」が禁止されているために、このような鞭打ちの刑を刑事罰として導入することは憲法違反となりかねませんが、シンガポールにおいては、歴史的に英国およびインドの刑事法に由来する鞭打ちの刑が従来から認められてきています。2011年に国際連合の補助機関である国際連合人権理事会が、鞭打ちの刑の撤廃をシンガポールに対して推奨した時も、シンガポール政府はこれを受け入れませんでした。

 

20年ほど前に米国人の少年が器物・公共物の損壊行為等を行ったために鞭打ちの刑を科されたことは、当時の米国大統領まで干渉してきた経緯もあいまって日本でも有名な話となりましたが、最近でも、2010年にスイス国籍の男性が器物・公共物の損壊行為を行ったとして鞭打ちの刑を実際に科されており、外国人だからといって鞭打ちの刑を免除されるということは特にないようです。

 

この鞭打ちの刑ですが、法律上、女性および刑の執行時に50歳以上の男性に対しては科されません(その代わりに最長12月の身柄拘束が科されえます)。また、通常の場合、禁固刑と共に科されることが多いようですが、死刑を宣告された者に対しては鞭打ちの刑は科されません。刑の執行にあたっては、法律において直径1.27センチメートル以下の籐製の鞭を用いることが定められています(少年が対象の場合はより軽い鞭を用います)。

 

具体的な刑の執行方法ですが、まず刑の執行人は、受刑者が安全に刑を執行されることを確保するために受刑者を台に固定します。そして、執行人は、受刑者の腰より下の部分を露出させた上で、実際には臀部の辺りを鞭で叩きます。鞭打ちの刑の執行の際には、医師が立会い、受刑者が刑に耐えうる健康状態かどうかをチェックし、刑の執行中に、もし医師が残りの刑の執行に健康状態からして受刑者が耐えられないと判断した場合には、鞭打ちの刑の執行はその段階で停止されます。ただ、この場合でも最長12月の身柄拘束が代わりに科されえます。

 

鞭打ちの刑が科されうる犯罪としては多岐に亘りますが、その一部を紹介すると、殺人、強盗、誘拐、強姦、器物・公共物の損壊行為、一定の違法薬物の売買・輸入等、売春の周旋を繰り返し犯した場合、一定の不法入国・不法滞在などが含まれます。これらの犯罪を犯したことによって科されうる鞭打ちの回数については、その犯罪を規定した法律によって定められていることが多いですが(例えば、器物・公共物の損壊行為の場合3打から8打)、そのような回数の制限を定めた法律規定が無い場合でも、一回の判決によって科されうる最多の鞭打ちの回数は24打までと刑事手続法で定められています(少年犯罪の場合には最多で10打まで)。

 

ここ最近の鞭打ちの刑の執行状況についてですが、米国務省のHuman Rights Reportによると、2010年には合計3,170人が鞭打ちの刑を科され(そのうちの98.7%の刑が実際に執行されています)、2011年には2,318人が鞭打ちの刑を科されています(そのうちの98.9%の刑が実際に執行されています)。なお、シンガポール在留の外国人が鞭打ちの刑を科された場合には、国外退去を命じられることがあります。

 

人によって痛みを感じる度合いは異なるでしょうが、とある4打の鞭打ちの刑の執行を受けた人によれば、鞭打ちを受けると出血をし、大の大人でも泣き叫んでしまうほどの痛みを伴うもののようです。鞭打ちの刑など受けないように、ごく当然のことではありますが、日々犯罪となるようなことはしないように心掛けましょう。

取材協力=Kelvin Chia Partnership 高瀬 秀次郎

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.223(2012年11月05日発行)」に掲載されたものです。

本記事は、一般情報を提供するための資料にすぎず具体的な法的助言を与えるものではありません。個別事例での結論については弁護士の助言を得ることを前提としており、本情報のみに依拠しても一切の責任を負いません。

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