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法律相談

2011年4月18日

Q.シンガポールにおける担保法制は、日本と比べてどのような違いや特徴がありますか?

シンガポールの担保法制 ―日本法との比較の視点から―(その1)

日本では、国会の制定法である民法が主要な担保の要件及び効果を定めています。ところが、シンガポールでは、包括的に担保の要件及び効果を規定した法律があるわけではありません。これは、シンガポールがコモンローの国であり、担保の要件及び効果も含めて、法の基本原理がコモンロー(または判例法)に従って形成されるためです。国会の制定法は、かかるコモンローの原則を改変したりする役割を担っています。そのような担保に関する規定を置く制定法の例としては、Companies Act (Cap. 50)、Land Titles Act (Cap. 157)、Bills of Sale Act (Cap. 24)などが挙げられます。

 

なお、シンガポールにおけるコモンローの主な法源は、イギリスのコモンローです。この点については、Application of English Law Act (Cap. 7A)という法律が定めており、1993年11月12日の直前においてシンガポール法の一部を形成していたイギリスのコモンロー(エクイティの原則を含みます)は、シンガポールにおける諸事情により改変される場合を除き、継続して適用される旨が規定されています。

 

担保の種類も日本とシンガポールで異なります。シンガポールにおける主な担保の種類は、以下の通りです。なお、以下では、Personal SecurityであるGuaranteeやIndemnityは除外してご説明します。

 

Mortgage:

「抵当権」の訳語がよく用いられますが、日本法下における抵当権とは違いがあります。

 

Charge:

日本法下でこれに相当する担保権がないため、ちょうど良い訳語がありません。そのため、無理やり訳さなければならない場合には「担保権」といった一般的な用語で置き換えられていることが多いようです。

 

Pledge:

日本法下における質権に類似することから、「質権」の訳語が用いられることが一般的のようです。

 

Lien:

日本法における「留置権」及び「先取特権」の双方に類似した担保権を包含するため、訳語を用いず英語のままとするか、あえて日本語にする場合でもカタカナで「リーエン」と表記しているようです。ただし、「留置権」または「先取得権」のいずれか一方のみに類似した担保権を指している場合には、具体的な担保権の内容に応じて「留置権」または「先取特権」の訳語が当てられることもあります。

 

MortgageとChargeは、担保権者による担保目的物の占有を必要としない担保であり、PledgeとLienは、担保権者による担保目的物の占有(事実上の占有だけでなく、解釈上の占有も含めて)が重要な要素となる担保です。以下、順に詳しくご説明いたします。

 

(1)Mortgage

コモンローにおけるMortgageは、担保目的物の所有権が担保権者へ移転するものの、当該移転は被担保債権が完済された場合における担保権設定者の請戻権の制約に服するという構成を取ります。これは、所有権の移転を伴わない日本の抵当権の概念とは異なっています。また、シンガポールにおけるMortgageは、不動産以外の財産(動産や債権など)に対しても設定できる点で、日本における抵当権と異なっています。

 

ただし、シンガポールでも、担保目的物が登記された不動産である場合には、コモンローのMortgageではなく、Land Titles Act (Cap. 157)下の登記によるMortgageが適用されます。しかも、Land Titles (Amendment) Act 2001の制定により、事実上シンガポールの全ての不動産はLand Titles Act (Cap. 157)の適用下で、登記を通じてのみ権利移転しうることになっています。同法では、登記された不動産への抵当権設定は、所有権の移転としては機能せず、担保権の付与としてのみ機能するとされており、その意味では日本の抵当権と違いはなくなっています。(次回へ続く

取材協力=Kelvin Chia Partnership 大矢 和秀

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.187(2011年04月18日発行)」に掲載されたものです。

本記事は、一般情報を提供するための資料にすぎず具体的な法的助言を与えるものではありません。個別事例での結論については弁護士の助言を得ることを前提としており、本情報のみに依拠しても一切の責任を負いません。

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