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2007年1月15日

インドの地域経済構造(経済3)

前回はインドの経済構造を、その経緯、国際収支、為替や財政の観点から見ていきましたが、今回は地域的特性の観点からみていきます。

 

インドはこれまでずっと貧しいというイメージが強い国でしたが、所得格差を表すジニ係数でみると、中国やタイに比べて所得格差は比較的小さい水準にあります。またインドは多様性の国で地域の特性も異なり、中国における沿岸部と内陸部の差ほどはありませんが、州によって所得水準にも大きな差があります。

 

インドでは概して北部から西部、南部にかけては所得が高く、東部、中部に所得水準の低い州が多くあります。所得水準の高い州は、パンジャブ州、ハリヤナ州、マハラシュトラ州、グジャラート州、ケララ州、タミルナドゥ州などで、こうした州では識字率も7-8割とインド平均の65%を大きく上回っています。一方、所得水準の低い州はビハール州、ジャルカンド州、ウッタルプラディシュ州、オリッサ州などです。最も所得水準の低いビハール州はパンジャブ州の1/5程度で、識字率も47%とかなり低く、最も高いケララ州91%の半分のレベルです。また州の中でも都市部と農村部では格差が大きくなっています。
また地域ごとに言葉や嗜好といったものから、税率など制度も異なっており、インド進出を考える場合には、その地域に強いパートナーを選ぶ必要があります。
各地域の概要、特徴を以下に示します。

 

1北部

首都ニューデリーを抱える北部は、急速に発展する工業地域と、伝統的な農業生産地とから成ります。
ニューデリーを取り巻く一帯は、インド最大の工業都市圏が形成されており、中でもグルガオンやノイダといった郊外では、自動車や電機など外資系有力企業が多数進出しています。対インド直接投資の1/4はこのデリー首都圏に向けられています。最近でもパンジャブ州に、独VWの進出が決まりました。
一方ウッタルプラデシュ州やパンジャブ州、ハリヤナ州はインド北部を代表する豊かな農業地域です。ここはコメや小麦、サトウキビやジャガイモなど、主食となる穀類の一大産地です。

2西部

ムンバイを有する西部は、首都圏とともにインド経済を引っ張ってきた地域です。ムンバイは、証券取引所やインド最大の港などがある商業港湾都市です。ムンバイの産業は国営企業の多いデリーと異なり、貿易、金融、サービス、石油化学などで、新旧の財閥をはじめ民間企業が主要プレーヤーです。ビルラ財閥、タタ財閥、リライアンス・グループなどは、この地域に本拠を置いています。グジャラート州は石油化学や機械工業などの工業州ですが、最近では医薬やITも進んできています。
この地は農業生産も多く、マハラシュトラ州は綿花の生産高がインド第1位で、大豆、タマネギなどの生産も盛んです。

3南部

南部にはバンガロール、チェンナイ、ハイデラバードなどがあり、世界のIT企業が集積するIT産業の中心地となっています。また、北部と同様に自動車産業の集積地でもあります。チェンナイ周辺には、ヒュンダイ、フォード、ボルボなどの外資や、ヒンドスタンモーターズが生産拠点を置いており、トヨタ自動車は隣のカルナタカ州に進出しています。これにはチェンナイ港が東南アジアと面し、FTAを締結したタイなどからの部品の輸入や南西アジアやアフリカへの完成車輸出に便利なことや、南部の賃金水準が低いことなどが要因としてあります。
また南部は、アーリヤ人から逃れた先住のドラヴィダ人が多く居住していることもあり、反権力志向が強く、政治的には共産党系など左派が強いことも特徴です。

4東部

東部にはインド第2の人口を持つコルカタを中心として、鉄鉱石、銅、ボーキサイトなどが産出される地域です。特にインドは、鉄鉱石では世界第4位の生産国です。それでオリッサ州には韓国のポスコやタタ・スチール、さらに世界最大手アルセロール・ミタルも製鉄所の建設を計画しています。
西ベンガル州はコメとジュートの生産でインド第1位で、アッサム州ではインド紅茶の半分を産します。
一方、ビハール州、ジャルカンド州やオリッサ州などでは貧困層も多く、また識字率も低いレベルにあります。

 

次回はITの3回目で、インドIT産業の特徴について述べます。

文=土肥克彦(有限会社アイジェイシーauthor

福岡県出身。九州大学工学部卒業後、川崎製鉄入社。東京本社勤務時代にインド・ダスツール社と協業、オフショア・ソフト開発に携わる。
2004年有限会社アイジェイシーを設立、ダスツール社と提携しながら、各種オフショア開発の受託やコンサルティング、ビジネス・サポート等のサービスで日印間のビジネスの架け橋として活躍している。
また、メールマガジン「インドの今を知る! 一歩先読むビジネスのヒント!」を発行、インドに興味のある企業や個人を対象に日々インド情報を発信中。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.090(2007年01月15日発行)」に掲載されたものです。

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