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インドビジネス基礎情報

2007年5月7日

インドIT産業の特徴(IT4)

今回はITの第4回で、インドIT産業の特徴を中国との比較において論じてみます。
まずインドのIT産業は、ハードウェアよりもソフトウェアに傾斜した構造です。市場規模で言うと、インドはソフトウェアが8割を占めていますが、中国は逆に85%がハードウェアです。これは1978年以来の改革・開放政策により外資が流入し、中国は「世界の工場」となっていったのに対して、インドは91年まで閉鎖的な政策を続けてきたことが影響しています。中国では電子・通信設備製造業生産額の7割、家電・IT関連製品輸出額の77%(2000年)は外資系企業によるものです。

 
しかし技術革新が進み、ハードウェアにおいても組込みソフトの重要性が高まっています。現在工業製品の付加価値はハードから、ハードとソフトとの組み合わせの部分に移ってきていると言われています。例えば携帯電話では、一昔前の銀行オンラインシステムに匹敵するような大きさのソフトが組み込まれていると言われています。また自動車や電化製品の組み込みソフト関連の開発コストは、全体のコストの半分以上を占めるとも言われています。このようにハードウェアの品質を決めるのはソフト部分へとシフトしつつあるといった状況が、ソフトウェア大国インドにハードウェアの面でも有利な追い風となってきています。

 
次にソフトウェア売上げの8割を占める、インドの輸出主導の構造があります。この点中国のソフトウェアは国内向けが9割で、輸出は36億ドルとインドの1/4です(2005年)。欧米向けの受託金額が国内相場よりもかなり高いことに加えて、インド国内企業や政府のIT活用が進んでいなかったこと、そしてインド国内ではパソコンやインターネットの普及率が低かったことが影響しています(04年の固定電話普及率:中国:24.0%、インド:4.1%、インターネットユーザ普及率;中国:7.2%、インド:3.2%)。インドIT大手も売上げのほとんどは輸出で、最大手のタタ・コンサルタンシー・サービシズTCSでは、売上げの8割を対米、対欧輸出で得ています。輸出先は、インドは対米輸出が7割であるのに対して対日はわずか3%です。一方中国は、対日が6割となっています。

 
その他インドのソフトウェア業界は大企業中心ですが、中国は中小企業が多いのが特徴です。03年のデータで中国のソフトウェア企業数はインドを上回る8千社もありますが、その3/4は従業員50人以下です。一方インドIT大手は、TCSが83,500人、インフォシスは69,500人、そしてウィプロは66,200人という巨大な社員数で、この1年でも2~4万人という大量採用を続けています。その結果インドは大規模なプロジェクトを受注し、さらに大規模プロジェクトをマネージメントできる人材やノウハウが、インドの大手企業に蓄積されていっています。昨年末には国立中国銀行からでさえも、1億ドル規模の大型案件はインドのタタ・コンサルタンシーが受注しています。一方中小企業中心の中国では優秀なプロジェクト・マネージャーが不足しており、大規模なプロジェクトを行う体制が十分でありません。それで中国企業は、下請け的な業務にとどまることが増えています。中国はこの点で製造業で外資を導入して成長させたように、ITの分野でもインド企業の中国への誘致を進め、インド企業の手法を学ぼうとしています。同時にインドIT大手も、市場の大きさ、中国に進出した欧米の顧客へのサービス、そして対日戦略という点で中国に注目しており、次々と中国での開発拠点を増強しています。

 
その他インド企業の特徴として、ソフトウェア・プロセスの品質管理が世界最高水準にあることがあげられます。ソフトウェアの品質水準を示すものとしてソフトウェア能力成熟度モデルCMMがありますが、2003年時点ではCMMの最高位であるレベル5の認証を受けた事業所は世界の3/4がインドで65、一方中国は2事業所しかありません。

 
さらに忘れてはならないインドの優位点としては、語学力があります。そもそもインドのITがここまで発展できたのも、インド人の英語力に負うところが大きく、この英語力で米国や英国からの受注を拡大して成長してきました。ただし日本語力に関しては、中国の方がインドより圧倒的に優位です。

 
次回の宗教では、自由思想の時代に成立した仏教について、初期の思想や実践を中心に述べます。

文=土肥克彦(有限会社アイジェイシーauthor

福岡県出身。九州大学工学部卒業後、川崎製鉄入社。東京本社勤務時代にインド・ダスツール社と協業、オフショア・ソフト開発に携わる。
2004年有限会社アイジェイシーを設立、ダスツール社と提携しながら、各種オフショア開発の受託やコンサルティング、ビジネス・サポート等のサービスで日印間のビジネスの架け橋として活躍している。
また、メールマガジン「インドの今を知る! 一歩先読むビジネスのヒント!」を発行、インドに興味のある企業や個人を対象に日々インド情報を発信中。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.097(2007年05月07日発行)」に掲載されたものです。

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