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2007年10月1日

ムスリムのインド支配(歴史6)

今回はインドの歴史の6回目、グプタ朝衰滅以後の8世紀頃からのインドについてみていきます。

 

8世紀中ごろのインドは、ガンジス川中流域、東部下流域ベンガル、そして南部デカンの3つの地域で強大な王朝が現れ、以後約200年にわたって三王朝が覇権を争う構図でした。
このうち北インドでは、まずベンガルでパーラ朝が強大な勢力を築き、北東部のビハールまでも領土を広げました。

 
ガンジス川中流域では、ラジャスタンから興ってガンジス川中流域にまで領土を広げたプラティハーラ朝が勢力を築きました。そして9世紀の中ごろには、北インドの西側半分までを領域としていました。

 
しかし10世紀後半には、パーラ朝、プラティハーラ朝とも衰退し、地方の支配者がそれぞれ離れて独立していったのでした。

 

11、12世紀頃は、北インドでは圧倒的に強大な王朝は出現せず、それぞれの地方にいる王朝が割拠して、地域文化の発達に結びつけていた時代でした。
そしてこの頃になると、アフガニスタンからムスリム(イスラム教徒)の軍隊の侵入を受け、抗争を繰り返していた時代でもありました。

 
西部グジャラート地方では、チャウルキヤ朝が10世紀中ごろから約250年にわたって支配し、海上貿易の利益を得て繁栄していました。
北西部カシミール地域は比較的孤立していたところでした。しかしこの時期、ここの王朝はアフガニスタンのムスリム王朝と戦って滅ぼされ、カシミール、パンジャーブ地方はムスリムの支配するところとなりました。

 
南インドに目を転じると、この時期はデカンとタミルナドゥに強大な王朝が栄えていました。両地方の王朝は長い間抗争を繰り返してきましたが、どちらも決定的な勝利は得られず、12世紀中ごろまではこの体制で大きく変わることはありませんでした。

 

 

このような状況の後、12世紀末から13世紀にかけて、ムスリムのインドへの侵入が進み、インダス、ガンジス両川流域を征服したのでした。そしてムスリムはその後、約550年にわたってインドの大半の土地を支配し、インドの政治、社会、文化のあらゆる面にわたって、大きな影響を与えていくことになりました。

 
ムスリムによるインド征服は、アフガニスタンにいたトルコ人部族を中心に行われました。11世紀に入って以後十数回にわたって北インド各地に侵入し、パンジャーブ地方は併合されることとなりました。

 
そして1192年にデリー近くのパーニーパットの戦いでムスリムの軍隊が勝利し、さらにガンジス川を下って、ベンガル、ガンジス川流域の征服を達成しました。このときの一連のヒンドゥーの敗北は、カースト制による全ヒンドゥーの団結力が欠如していたことによると言われています。

 

 

このようにして、14世紀前半までにヒンドゥー王朝は次々に滅ぼされていきました。しかしヒンドゥー諸勢力は各地に存在し、ムスリム勢力の衰退の機をうかがっては、独立をはかっていました。

 

一方ムスリムの諸王朝にとっては、征服した広大な領域を全村落の末端に至るまで、自分の軍隊と官吏の手で支配することは不可能でした。征服者であるムスリムの人口が少なかったため、ヒンドゥーの領主層に対して、旧来の地位を保障して、租税の徴収と村の統治にあたらせざるを得ませんでした。すなわちヒンドゥー教を迫害することはしませんでした。これはジャイナ教など他の宗教に対しても同様でした。

 

この時代のヒンドゥー社会はカースト制が強化された時代で、同じカースト内の結婚や職業の世襲などの制約が厳しくなっていきました。つまりカーストによる差別がはげしくなり、これはムスリムの支配を強く意識したバラモンと、上位カーストの領主層がその動きを促進することとなったのでした。

 
こうしたカースト制度の強化にともない、女性に対する種々の制約も強まりました。寡婦が夫の遺体と一緒に生きながら火葬されるサティーという慣習は、この時代に特に賞賛され、各地でさかんに行われました。また、女性の顔を黒衣で覆い隠すパルダという慣習がムスリムから伝わり、ヒンドゥーの上位階層の間で広まったのも、この時代でした。

文=土肥克彦(有限会社アイジェイシーauthor

福岡県出身。九州大学工学部卒業後、川崎製鉄入社。東京本社勤務時代にインド・ダスツール社と協業、オフショア・ソフト開発に携わる。
2004年有限会社アイジェイシーを設立、ダスツール社と提携しながら、各種オフショア開発の受託やコンサルティング、ビジネス・サポート等のサービスで日印間のビジネスの架け橋として活躍している。
また、メールマガジン「インドの今を知る! 一歩先読むビジネスのヒント!」を発行、インドに興味のある企業や個人を対象に日々インド情報を発信中。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.107(2007年10月01日発行)」に掲載されたものです。

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