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2008年6月2日

ヒンドゥーの宇宙感とカルマンの法則(宗教8)

今回の宗教では、宇宙創造のシステムから輪廻転生へとつながるヒンドゥー思想についてまとめてみることにします。

 
ヒンドゥーの宇宙発生論では、最初に原初暗黒宇宙内の宇宙精神が、自身の体から初めて水を生んだとされています。この最初の原水がヒンドゥーにおける三最高神のひとつである世界秩序の維持神ヴィシュヌそのものとされています。その原水から宇宙卵ができ、その卵の中でこれも三最高神のひとつである宇宙の創造神ブラフマーが、宇宙精神が変化したものとして現れたと考えました。

 
このようにヒンドゥーの宇宙発生論では、宇宙は宇宙精神の目覚めとともに始まったとされています。そして全宇宙は、この至高の宇宙精神の活動の現象化であるとしています。
古代インド人は、世界(宇宙卵)はブラフマーの目覚めとともに創造され、夜の眠りとともに破壊されることが繰り返されると考えました。このようにヒンドゥー教では時間は直線状のものでなく、ブラフマーの覚醒と眠りという円環状に流れ、繰り返されるものであると考えました。

 
この循環する世界の中で人間はどのような生を送るのかを考え、輪廻転生という思想が生まれました。ウパニシャッドに書かれた教説で人間が死後にたどる道は2つだと説かれています。

 
ひとつは解脱(げだつ)して宇宙の最高原理であるブラフマンに帰一し、永遠に一体化する「神道」、もうひとつは何らかの生き物の姿となって現世に生まれ変わる「祖道」です。この祖道は、輪廻転生を指しています。この輪廻転生の基本思想は、人は肉体の死によっては滅びず、生き変わりするということです。

 
人は死んだ後、祖道を通って植物に転生し、何かに食べられて精子となります。それから人の母胎に入り、再生して新たな人生が始まるのです。これは男根を崇拝するリンガ信仰ともつながるものです。

 
インドでは、いかなる行為もそれにふさわしい結果が伴うと考えられてきました。このことは行為を意味する「カルマン」から、「カルマンの法則」と言います。これは日本語で言う「因果応報」です。良い行為をすればよい結果がもたらされ、悪いことをすれば悪い結果が生じるというものです。そしてこれは、それまでの行為によって次の生存のあり方が決定されるという、輪廻転生の考え方と結びつきました。

 
カルマンの法則とは、言い換えれば、行為の結果からは逃れることはできないということです。今の自分は100パーセント過去の自分の結果であり、今の行為は自分の未来のあり方を決定づけることとなる。そして、その行為の果報を受けるのは、現世を飛び越えて来世ともなるものです。生命は現世で完結せず、いくつもの肉体をとり、以前行った行為に縛られて生死を経てめぐるものと考えました。生きとし生けるものは、過去の行為の結果として肉体が死んだあとにも次の生を受け、輪廻転生を繰り返します。生存は苦しみにほかならず、この輪廻の生存を脱することこそが、ヒンドゥー教で目標とするところとなっています。

 
しかしカルマンの法則は、ヒンドゥー教徒を積極的に行為に向かわせるよりも、行為そのものから遠ざけるような道を選ばせるようにさせていきました。今の行為は過去の行為の果実であり、同時に未来の行為の種子ともなります。行為は、良い行為でも悪い行為でも結局は魂を輪廻転生に縛り付けるものであるから、行為そのものを放棄するのが良いという考えになっていきました。

 
このような考えは、インド人から精神面での活力を奪うことにもなっていきました。行為をして何か新しいものを生み出すよりも、従う方がいいという考えとなっていきました。このような長い伝統が、インド人に何かに挑戦するよりも、受け入れるような姿勢を植え付けていったのでした。そしてがんじがらめのインド社会で、服従することは体制を尊重することとなっていきました。

 
このようにインド人が服従を大切にしてきたことは、規律正しさを受け入れる素地となっています。そして目上の人や権力者には基本的に服従するインド人の姿勢は、米国など外国の企業には好まれることとなりました。こういったことが、米国の企業がインド人を好んで採用するような理由のひとつともなっています。

 
次回は政治の8回目で、印米関係について述べていきます。

文=土肥克彦(有限会社アイジェイシーauthor

福岡県出身。九州大学工学部卒業後、川崎製鉄入社。東京本社勤務時代にインド・ダスツール社と協業、オフショア・ソフト開発に携わる。
2004年有限会社アイジェイシーを設立、ダスツール社と提携しながら、各種オフショア開発の受託やコンサルティング、ビジネス・サポート等のサービスで日印間のビジネスの架け橋として活躍している。
また、メールマガジン「インドの今を知る! 一歩先読むビジネスのヒント!」を発行、インドに興味のある企業や個人を対象に日々インド情報を発信中。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.123(2008年06月02日発行)」に掲載されたものです。

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