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2013年4月15日

パキスタン編⑥ 最終回:ニュー・パキスタン

駐パキスタン特命全権大使 大江 博

皆さんがパキスタンに持つイメージは、貧しく抑圧された社会、治安が悪く、汚職が蔓延し、政情が不安定な国、というものではないでしょうか。

 

かく言う私も、2年前に当地に赴任する前は、その一人でした。しかし、その後の勤務を経て、パキスタンほど、「パーセプション・ギャップ」(日本で持たれているイメージと現状の落差)が大きい国はないとの印象を強く持っています。また、パキスタンは、今、大きく変わりつつあると感じています。

 

これまでの5回の連載では、それぞれの筆者の方々から、パキスタンが実は経済的に魅力的で潜在力を持った国だということをご説明頂いています。私も全く同感です。今回は、政治・社会面における「ニュー・パキスタン」の萌芽について見た上で、全体のまとめを述べさせて頂きたいと思います。

 

民主主義の深化

パキスタンでは3月16日に、史上初めて、文民政権が5年間の任期を全うしました。5月には総選挙が行われ、民主的に選ばれた一つの政権から別の政権に初めて移行することになります。今後の動向を注視する必要がありますが、民主主義は着実に深化してきていると言えると思います。

今回の選挙では、従来の二大政党に加え、若年層の支持を得た第三勢力も注目を集め、新風を吹き込んでいます。

パキスタンでは過去に民主政権が軍事クーデターで倒された歴史がありますが、現在、私の周りで、軍事クーデターを危惧する声はあまり聞かれません。

 

メディアの自由

このような民主主義の深化の要因の一つには、メディアの活動があると思います。

十数年前までは、パキスタンのTVは、事実上国営放送の一局しかなくニュースは官製報道が殆どでした。しかし、今では50チャンネル以上が乱立し、十数チャンネル以上は主にニュースを流しています。これらの報道は、かつての官製報道とはほど遠く、時にはこちらが冷や冷やするほど自由に政権批判を展開しています。私の友人のある人気キャスターは、その舌鋒の鋭さから、脅迫を受けるほどですが、それに屈せず報道の自由を守り続けています。

 

司法の独立

また、パキスタンでは現在、これまでになく司法の独立が確保されています。その象徴は、チョードリー最高裁長官で、彼は前ムシャラフ軍事政権時代に解任されても、司法の独立のために闘いました。最終的にはこれが原因でムシャラフ軍事政権が崩壊したという見方もあります。

チョードリー最高裁長官はその後復職し、今は国民の支持の下、時には行き過ぎとも言われても、政権や軍を糾弾する判決を出しています。昨年6月には時の首相までも法廷侮辱罪で解任に追い込むほどでした。このようにここ数年間で、パキスタンの政治と社会は大きな変化を経験しています。

 

百聞は一見にしかず

ビジネスの対象としてパキスタンを考えるとき、確かに、一部の地域でのテロや一般犯罪、全国的な電力不足、マクロ経済やガバナンスの悪さなど、多くの課題があるのは事実です。しかし、1億8,000万人の人口は若年層が多く、今後も増加が続きます。在外パキスタン人からの送金等を受け、消費経済は着実に伸びています。パンジャブ州の主要都市では治安は比較的良好ですし、カラチ等でも安全対策に気を配りながら生活することは可能です。シアルコートのスポーツ用品・医療器具産業などに見られる、「ものづくり」の高い技術もあります。インドと比較すると人々の性格も大人しく、労組問題もあまり見られません。

 

1950年代には、カラチはニューヨークと並んで、日本のビジネスの2大海外拠点とまで言われました。日本の戦後復興は、繊維産業を軸になされましたが、パキスタンは、綿花の輸出を通じて、それに大きく貢献しました。また、パキスタン自身において繊維産業が育っていくと、そこで使われる機械等は日本から輸出されました。

 

治安問題等を解決すれば、パキスタンは日本にとっても、大きなビジネスチャンスを提供することは、間違いありませんが、皆が押し寄せるようになったときには、うまい話はなくなっています。パーセプション・ギャップにより、あまりビジネスの方に来てもらえない今こそ、日本のビジネス関係者には、是非一度パキスタンを訪れ、直接その目で実情を見て頂きたいと思います。そうすれば、パキスタンに対する見方が大きく変わると思います。

文=大江 博

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.232(2013年04月15日発行)」に掲載されたものです。

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