シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOP第3話:こんなに違う、日本とシンガポールの海運

Vessel Manager 令官の海事点描

2015年1月1日

第3話:こんなに違う、日本とシンガポールの海運

先日、タイのレムチャバン港からシンガポールまで、管理を担当している自動車運搬船に数日間、乗ってきました。シンガポールの岸壁に着岸したのは夜の10時近く。しかし、シンガポールでは、「さて一晩寝て、明日の朝から荷役(貨物の積み込みや荷下ろし)……」、というわけにはいきません。シンガポール港では夜間の荷役が可能ですので、着岸するやいなや荷役準備スタートです。今回はたくさんの荷揚げ荷積みがあり、船側乗組員も陸側作業員も気合いを入れて(?)一昼夜の作業を行い、翌日の夜中近くに、ようやく次の港へ向かって出帆していきました。

 

日本とシンガポールはどちらも海に深い関係がある国ですが、その中身は少しずつ様子が異なっています。どのような違いがあるのでしょうか。

 

港湾・荷役効率の違い

冒頭に述べた通り、シンガポールの港は「24時間営業」です。加えて、ITに下支えされた高い荷役効率も大きな特徴です。限られた国土・港湾数にも関わらず、ハブ港として一日約100隻の船を切り盛りするために、政策面、ハード面のサポートは万全です。

 

一方、現在日本の港湾は、元気の良いシンガポールや香港などアジア諸外国に少し押され気味で、踏ん張りどころと言えるでしょう。その背景には港湾での諸手続きに係る時間、費用等の問題があり、また、各種制限の緩和も求められています。例えば比較的取扱量の多いコンテナターミナルでも、ゲートオープンの時間帯(コンテナを積載した車両が入る時間帯)は朝8時半から夕方16時半と制限されています。現在、使いやすい港、また港の荷役効率の改善を図るべく、一部ターミナルで早朝や夜間のゲートオープンの試みを行ったり、ターミナルに出入りするトレーラドライバーのカード自動認証や、コンテナへの電子タグ認証システム等を導入し貨物認証時間の短縮を試行する等、様々な側面から改善の取り組みが実施されています。

 

海運貿易体系の違い

年間で海外から日本に入港してくる船舶の数は約9万5,000隻、重量ベースで99.7%のモノが海上輸送で運ばれています。一方、年間に海外からシンガポールに寄港する船舶数は約6万2,000隻です。

 

シンガポールの方が少ないじゃない?そんなことはありません。単純に人口で割ってみても、日本1億2,700万人に対してシンガポールは540万人。桁が違います。では、シンガポールの人は毎日豪快に飲み食いをして毎日服を新調しているか。そんなことはありませんね。

 

シンガポールは、自国の役割を「ハブ港」、すなわち、荷物の中間地点、積み替え地点、として見出しています。つまり、毎日船はたくさん来ますが、その荷物の多くは積み替えのために一旦荷揚げされるだけで、また他の船でどこか違うところに運ばれていくのです。荷物が経由する=トランシップする港、という位置づけです。

 

それぞれの海運業界・造船業界

貿易を支える船を作る造船業界、またその船を用いてモノを運ぶ海運業界は、シンガポール、日本、いずれの国にも根付いています。日本の造船業は歴史的に古く、またその技術力は世界的に有名ですが、シンガポールも1963年に政府主導により造船業が確立され、その役割を色々と模索しつつ、現在は新造船、修繕ヤードとして、また特にオフショア関係においてその技術力を発揮しています。シンガポール海運業界では国際海運グループNOL(ネプチューン・オリエント・ラインズ)が現在でも最大規模ではありますが、その他、船舶運航会社、シップファイナンス関係、また海外の運航会社も入った海運協会(The Singapore Shipping Association)を形成し、比較的幅広いつながりを持っています。

 

日本の海運業は、造船業同様歴史は古いながらも、時代時代のニーズに応えるべく日本や世界の海でモノを運び続けています。

 

シンガポールも日本もその違いはあれども、海につながりが深い国という意味では仲間と言えるでしょうか。今後も「海の国」同士として互いに切磋琢磨出来れば、と海運人として感じる次第です。

 

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シンガポール港のターミナルで自動車運搬船(左)から次々と荷卸しされる自動車。
これから、最終仕向け(目的)地へ向かう車とシンガポール国内で販売される車に仕分けされる。

文=令官史子(れいかん・ふみこ)

日本郵船グループのNYK SHIPMANAGEMENT PTE LTDでVessel Manager(船舶管理人)や就航船管理の業務にあたっている。2013年の来星までは、約9年間新造船業務に携わった。
九州大学工学部船舶海洋システム工学科卒業、同大学院都市環境システム工学専攻。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.272(2015年01月01日発行)」に掲載されたものです。

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