シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOP第4話:シンガポールの港移転計画

Vessel Manager 令官の海事点描

2015年2月2日

第4話:シンガポールの港移転計画

「クリフォード・ピア」と聞くと、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。会社の同僚の元船乗りさんにとっては、若かりし頃、初めてのシンガポール入港で下船したことのある思い出の地なのだそうです。1933年に開港したかつての埠頭は、2006年の閉港後に再開発。現在は、ベイエリア一角、マリーナベイ・サンズの光のショーが見られるベストスポットになり、ホテルや美味しいレストランが集まった場所として生まれ変わりました。シンガポールは、自国のたゆまぬ発展のために、海事産業やその他のあらゆる産業に対して、日ごろから改革と変化を求めています。

 

トゥアスへのターミナル移転計画

リー・シェンロン首相は2013年の建国記念日演説で、島南部のコンテナターミナルを移設し、跡地を再開発する方針を発表しました。この計画は、現在はタンジョン・パガー、ブラニ島、ケッペル、パシ・パンジャンの4地区にあるシンガポール港のターミナルを、島西部のトゥアスに移転するものです。トゥアスの新ターミナルの完成予定は2020年。移転先では第1〜4期計画で土地の整備、設備の整備などの移転準備作業が進められています。

 

ターミナルの移転にはどのような目的があるのでしょうか。
第1に挙げられるのは、集約です。これまで島内に分散していたターミナルを集約することができますので、島内陸送が減って、船から船に積み替える、トランシップの貨物を積み替える効率が向上することになります。
続いて第2の目的は、大型船への対応です。現在のコンテナターミナルでは、今後増加する1万TEU※超クラスのコンテナ船の入港ができません。岸壁の水深が船の喫水(水に浮いた船体の底から水面までの垂直距離)より浅かったり、コンテナを積みおろしするガントリークレーンのリーチが届かなかったりするためです。しかし、新しいトゥアスターミナルでは、この不都合も解消され、超大型コンテナ船の入港が可能となります。その結果として、シンガポールでのコンテナ取扱能力は、現在の約2倍の年間6,500万TEUにもなると算出されています。

 

※貨物の容量を表す単位で、1TEU=20フィートコンテナの1個分。なお、20フィートコンテナは、長さ20フィート(6.1メートル)、幅8フィート(2.4メートル)、高さ8.5フィート(2.6メートル)。

 

さらに、トゥアス近郊の島西部には、船舶関連メーカーの工場や造船所もあり、船の機械部品の手配や修理、メンテナンスにも利便性が増すことになるのも第3の理由に挙げられるでしょう。
加えて、お隣のマレーシアでは、安価な港費や各種優遇制度を背景に、最大手クラスのコンテナ船主が、コンテナ船の中継地点をシンガポールから移すことに成功しており、今回の計画はこれに一矢報いるという意味合いもあるのでしょう。

 

サザン・ウォーターフロント・シティ計画

さて、一方で、ターミナルの跡地はどうなるのでしょうか。先の演説で、リー首相は、島南部の海沿いの跡地、約1,000ヘクタールを「サザン・ウォーターフロント・シティ」として、商業施設や高級コンドミディアムに変貌させる計画を同時に発表しました。かつての港、クリフォード・ピアやマリーナベイ地区とともに、観光産業や、増加する外国人向け住居の需要に応えることが可能となるでしょう。

 

今回の移転計画で興味深いのは、ターミナルの移転で海事産業のステップアップを図るばかりでなく、近年海事産業同様シンガポール政府が力を入れている観光産業や、懸案とされている住居問題に対する解決策の1つとなりうるというところです。

 

トゥアスへの移転は長期計画になりますので、今後も様々な困難を乗り越えながら進められていくかと思います。近い将来、わが社管理船が新しいターミナルに入港する日を楽しみに待ちたいと思っています。

 

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現在稼働中のパシ・パンジャンターミナルで荷役中のコンテナ船

文=令官史子(れいかん・ふみこ)

日本郵船グループのNYK SHIPMANAGEMENT PTE LTDでVessel Manager(船舶管理人)や就航船管理の業務にあたっている。2013年の来星までは、約9年間新造船業務に携わった。
九州大学工学部船舶海洋システム工学科卒業、同大学院都市環境システム工学専攻。

 

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.274(2015年02月02日発行)」に掲載されたものです。

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