シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOP第1回:4つの蛇口

Dr.河野の寝耳に水の話

2014年4月7日

第1回:4つの蛇口

「おっと、この水大丈夫?」日本からシンガポールへ来られた方、蛇口をひねってまず思われたのではないでしょうか?水道水が飲める国は世界で11ヵ国しかないとも言われております。シンガポールの水道水は、世界保健機関(WHO)ガイドライン以上の厳しい項目をパスしている、世界有数のクオリティの高い飲める水です。では、なぜここまでの高い水の品質を保てるのか、保つ必要があるのかを説明します。

 

4つの蛇口:Four National Taps

シンガポールでは今年1月中旬から雨の降らない日が続きました。もし真夏の日本全体で、同じ事態が起これば危機的な水不足に陥ります。それは水源のほとんどが河川や地下水だから。一方、シンガポールでは「Four National Taps」と呼ばれる4つの水源を利用しています。

 

  1. 雨水
  2. 輸入水
  3. NEWater
  4. 海水淡水化

 

たとえ長期間雨が降らなくても、4つの水源で複合的にカバーできる。これがシンガポールの強みです。この水源戦略の背景にはマレーシアとの水の輸入契約があります。シンガポールは国土が狭く、高い山や大きな河川・湖もないため、雨量は多いのに貯めることが難しいのです。そのため、マレーシアと1961、1962年に2つの契約を結び、水を輸入していました。しかし最初の契約は2011年8月で切れ、次の契約も両国間の交渉が難航して2061年には終わる予定。つまり、シンガポールは自国内での水供給システムを急いで創り上げる必要があった訳です。なお、同時に雨水も、2011年から貯水エリアの拡大を進めていて、現在国土の3分の2にまで広がっています。

 

NEWaterとは

単純に言うと、下水を飲み水に替えるシステムです。プラントでは、下水処理した水が飲料水レベルに達するまでの高度な処理がなされています。処理方法はまず精密ろ過膜(MF(Microfiltration Membrane)膜)で、固形物質、コロイド粒子、病原菌、ウイルスなどをろ過し、続いて逆浸透膜(RO/Reverse Osmosis膜)で水分子のみをろ過。最後に紫外線処理をして殺菌をするというものです。2010年に最新かつ最大のプラントが完成し、現在水需要全体の約30%をカバー、2060年までにはさらに55%まで引き上げる予定とのことです。下水を飲み水に変えていることに、抵抗感がある人も多いのではないでしょうか。しかし主に、工場などの産業用に利用されていて、余った水は貯水池に戻して希釈、処理されて上水になっています。水道から直接このNEWaterだけが流れてくることはありませんが、100%NEWaterを飲んでもペットボトルの水と遜色ありません。PUBで配られていますので是非トライしてみてください。

 

海水淡水化とは

海水淡水化とは読んで字のごとく、海水を真水に替えるシステムです。従来は、海水を蒸発させて真水に戻す蒸発法が主流でしたが、近年、逆浸透膜(RO)法という、海水に圧力をかけて塩類を除去する方法が開発され造水方法が変化しました。
現在、シンガポールでは水全体の約10%がこの海水淡水化による造水によって賄われています。2013年9月にはトゥアスにアジア最大級のプラントが完成し、2060年には水需要の25%までカバーするのが目標です。
このシステムの問題点は、エネルギーを要し、コストが高い点にあります。そのため、シンガポールでは、動力を回収するシステムで高効率化され、世界トップクラスのコストパフォーマンスとなっています。さらに、最新の研究では海水へ電気をうまく与えて、水処理負荷を下げる試みも行われています。

 

以上2つの方式を足しますと、現在は全体の40%ですが、2060年には80%までになります。「無いのなら、造ってやろうじゃないか!」普段から水が潤沢にある日本では考えおよびませんが、国全体で取り組むこの機動力と発想は凄いものがあります。

 

ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ内に今年誕生した水遊び場。

本欄ではこれから、シンガポールの「アキレス腱」、そして、弱点を克服するため、今や世界に誇る先端技術拠点になった水事情について紹介します。世界情勢、日本との関わりも含めて、当地で活躍する専門家に、全6回にわたって解説 していただきます。

文=河野 龍興(こうの・たつおき)

東芝アジア・パシフィック社 水研究センター センター長
東北大学 大学院 環境科学研究科 非常勤講師
博士(工学)

 

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.254(2014年04月07日発行)」に掲載されたものです。

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