シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOP第2回:シンガポールの水道水

Dr.河野の寝耳に水の話

2014年5月5日

第2回:シンガポールの水道水

「おっと、この水どうやってできるのかな?」 前回はシンガポールの生命線とも言うべき水源に関する話題に触れました。今回はその水源を利用して作られる飲み水について。飲み水を作る浄水場は、シンガポール内に現在7ヵ所あり、それぞれ貯水エリア近辺に設置されています。水処理プロセスは大まかに「原水⇒凝集沈殿・ろ過⇒消毒⇒配水」となっており、各家庭の蛇口へと届けられているわけです。

 

水の消毒

飲み水を作るプロセスの中で一番重要な工程が「消毒」です。水道水の消毒とは伝染病の原因となる細菌やウイルス、原生動物などを「殺菌」して、安全な水を供給するためのシステムです。消毒剤としては一般に塩素(次亜塩素酸)が用いられています。塩素消毒は世界各地で1890年代から導入されていて、120年近く経過した今も使用されている歴史の長い処理方法です。

 

塩素消毒の長所は、1)消毒の効果が確実で残留性があること、2)大量の水を消毒できること、3)管理が容易なことなどです。特に1)が重要で、浄水場からの配水途中で消毒効果がなくなると、微生物が増殖してしまう恐れがあるため、高い残留効果が必要とされます。

 

しかし、欠点には環境汚染物質であるトリハロメタンの生成と塩素臭があります。トリハロメタンは次亜塩素酸イオンとフミン質という有機成分が反応すると生成する消毒副生成物で、発がん性の疑いがある物質とされています。

 

一方、シンガポールではこのトリハロメタンを生成しないクロラミン(NH2Cl)という結合塩素の方式を採用しています。この方式では残留効果が長続きして、しかも塩素臭さが残らないという利点があります。ただし、高い処理技術と複雑な維持管理が必要とされる難点があります。また、二酸化塩素(ClO2)という物質は、塩素よりも強力な消毒力を持ち、残留性もあり、トリハロメタンが生成しにくいことから、塩素代替消毒剤として特に欧州で有力視されています。

 

水の硬度・pH

水の硬度とは、水に含まれるカルシウムやマグネシウムなどの量を炭酸カルシウム量に換算して数値で表したものです。日本の水道水の硬度基準は300mg/L(水1リットル中に炭酸カルシウムが300mg存在)以下ですが、水質管理目標設定項目としては10〜100 mg/L が設定されています。シンガポールの硬度の平均値は60 mg/Lですので日本とほぼ同レベルです。

 

また日本の水道水pH基準値は、水道施設の腐食等を防止する観点から、5.8〜8.6の値と決められています。実はこれは化学的根拠に基づく基準ではなく、自然水のpHが概ね5〜9であるという結果に基づいているそうです。なお、シンガポールの水道水のpHは7.5〜8.3であり、日本の基準値内にあります。

 

水質管理

さて水質の管理ですが、例えば東京都水道局の場合、水質基準項目は水道法に基づき、厳格に50項目を管理しています。一方、「ミネラルウォーター」ですが、水道法の規制は適用されておらず、食品として管理されています。つまり食品衛生法に基づいて実は18項目しか検査されてしておらず、水質の管理という点では水道水の方が優れていることになります。また、有害物質であるヒ素、フッ素、ホウ素、マンガンなどは水道水よりも緩い規制値が設定されていて、取水する水源(地下水や温泉等)によっては、有害物質が過剰に含まれている可能性もありますので、その処理には十分な注意が必要となります。

 

なおシンガポールでは水道水はもちろん、原水、下水、NEWater、工場排水を各地から毎日サンプリングして検査しています。1年で30万サンプル、1日に約800サンプル以上を測定してチェックを実施しているとのことです。

 

高度な分析技術と水の研究開発

この国では非常に高度な水の分析を行うことができる機関があります。シンガポール公益事業庁(PUB/Public Utilities Board)の研究開発センターである「WaterHub」です。

 

PUBの研究開発センター「WaterHub」(写真提供:PUB)

WaterHubは水に関する高い分析力を持つだけでなく、水に関する最先端技術の研究・技術開発が行われており、同時に技術ノウハウの伝授やシンガポール内外の人的ネットワーク作りも推進されています。またWaterHub内には著名な企業の研究所が入っており、更に国際学会関連の事務局も拠点を置いていることなどから、普段から、グローバルでの研究者間の交流が盛んになっています。

文=河野 龍興(こうの・たつおき)

東芝アジア・パシフィック社 水研究センター センター長
東北大学 大学院 環境科学研究科 非常勤講師
博士(工学)

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.256(2014年05月05日発行)」に掲載されたものです。

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