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2014年5月19日

和の食材、サービスに見る究極。食の仕掛け人が魅了された理由

クリエイティブ・ビジネス・デザイナー カルバン・ヨン氏

― シンガポールへの進出のきっかけは?
2007年のシンガポールは経済環境を見ても非常に魅力的でした。不動産価格が妥当な水準だったこともあります。香港の不動産バブルは収まらないだろうし、高い高いと言われるシンガポールも香港に比べればまだまだリーズナブル。さらに、食に対してオープンマインドな人が多いことにも勝機があるとみました。
家賃の高い所で収益を出そうと思うこと自体がそもそも難しいですから、飲食ビジネスのキーは賃料にあるといってもいい。香港では新しい店が半年で入れ替わるほど、より安い賃料を探して店を移動し続けるため、ブランドが定着しない=顧客が根付かない。また、当時は台湾やタイに行くことも考えましたが、規制が多いことや政治に起因するデモなどが多発して客足が遠ざかるなどのマイナス要因がある。日本も候補に挙がりましたが、バブル崩壊後の不況が続いていた日本と比べて、これから大いに発展が見込めたシンガポールのビジネス環境への期待が大きかった。そこで、2008年にフラトン・ベイ・ホテル1階にある歴史的建造物・クリフォードピアに10,000スクエアフィートものスペースを占有し、上海料理をベースにしたモダン・チャイニーズレストラン「One On The Bund」を満を持してオープンしました(2013年末に賃貸契約のリースが終了し、閉店)。

 

― ビジネスにおける信条は?
プリティ&エキサイティング。全てのものをかわいらしく、素敵に変えることは非常にエキサイティングなことです。大事なのは、サービス。食のクオリティはもちろん、それを提供する空間からすべてのサービスを徹底することで、素敵な食の空間を客に提供できます。美味しいものを食べて、ハッピーになってもらうのが一番うれしい。
一方で、サービスの質の低さ、マンパワー不足が今の懸念材料です。中国本土から来た人に日本人のようなサービスを求めるには限界がある。そもそもサービスの必要がないと思っているので。かといって、シンガポール人がサービス業に就くかというと、答えは「ノー」。外国人労働者に頼るしかないのが現状です。これは、シンガポールの飲食業界の死活問題でもあるでしょう。

 

― なぜ、日本食を選んだのですか?
単純に、日本が大好き。日本に恋をしたと言っても過言じゃない。日本人はまじめで、そんな国民性に感銘を受けました。日本はとても美しい国です。また、食に対する畏敬の念が強く、それが食にあらわれています。加えて、日本食レストランを持つのは昔からの夢でした。香港では、テレビや雑誌でひっきりなしに日本の食や文化を特集しており、そういう環境から、日本は非常に身近な存在でした。今は、刺身と酒があれば幸せ。年のせいかもしれませんが、肉を頼んでも最後まで食べられなくなりました。
日本食は素材の味を堪能できる。本当においしい。刺身だけじゃなく、蒸してもなんでもとにかく、魚そのもののクオリティを考えると、日本産が最高です。日本の海は非常にきれいで、これは持論ですが、日本人は特に海、そして、魚介類全般を敬う気持ちもとても強い。たぶん、自然に関しても同じでしょう。
シンガポールは外国人が増え、食文化が多様化し、クオリティも高くなりました。どんなにトロがおいしいと説明しても、10年前だったら「不要(ブーヤオ)」で終わり(笑)。最近では、そういう人は減り、すすんでオーダーする人も増えました。

 

― もしシェフでなかったら、何かやってみたいことは?
映画監督。食やレストランの舞台裏みたいなドキュメンタリーを撮ってみたいですね。キッチンを舞台にした物語でもいいな。日本でリタイア生活を送ることも考えているけれど。

 

― 人生の最後に食べたいものは?
酒と刺身。そして、父直伝の魚のスープかな。魚は2ドルぐらいの安いやつでいい。だしが取れれば。ほどなく透明に近い色のスープ。僕はこのスープで育ったようなもの。やはり、人生最後となれば、このメニューになるでしょうね。

カルバン・ヨン(Calvin Yeung)

1962年香港・長洲島生まれ。幼年〜青春時代を海に囲まれた漁業の盛んな環境で過ごす。海鮮レストランを営んでいた父の影響もあり、幼いころから食に関する興味が旺盛で、特に魚介類が大好物。長じてからは迷わず、食の道へ。2000年に独立し香港で中国料理店『Shui hu ju』を開店後、様々なコンセプトで中国料理のレストランを展開。中でも『Hutong』は世界各国の賞を獲得、ミシュランにも選ばれ、アジアにおけるトップ20レストランとなった。2007年に来星。2008年にモダン・チャイニーズレストラン『One On The Bund』をオープン(2014年、閉店)。2014年2月、割烹&居酒屋レストラン『菊』をオープン。素材の味を生かしたモダンなアレンジの料理が好評。

 

 

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.257(2014年05月19日発行)」に掲載されたものです。
取材=野本寿子

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