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ビジネス特集

2010年5月5日

日本企業の「グローバル戦略」とリーダーに求められるもの

早稲田大学大学院 商学研究科 准教授、サイコム・ブレインズ講師池上重輔氏

二度の英国大学院留学経験と米系、欧州系、日系と様々な国籍、様々な業界の企業の現場での経験を持ち、企業戦略やマーケティングにも詳しい池上重輔氏。日系企業が海外でビジネスを展開する上で、何を見て、何をすべきか――国際経験豊富な氏の視点に迫った。

 

 

日本企業の「グローバル戦略」

p1-2日本企業のこれまでの海外でのビジネス展開の仕方は、池上氏によると、中央集権的ないわゆる「グローバル戦略」。ピラミッド型に例えると、頂点が日本で、日本が持つものをいかに上手に外に広げていくかであった。また、かつては日本で作った製品を海外へ輸出するのが日本企業の海外展開であったが、その後貿易摩擦などがあり、生産機能を海外に移転して現地生産が盛んに行われるようになった。しかし、そこでやっていることは、日本で作るものと同じ製品を、同じ作り方で作って同じ品質で仕上げるという、いわば日本の複製。日本企業の製品は、販売地域によって名前が違ったり、地域にあわせて電気系統の仕様が異なったりということはあっても、基本的に中身は同じものであることが多い。

 

一方、ヨーロッパ企業に良く見られる海外展開は「マルチリージョナル」。地域ごとに主権を持たせ、何を作るのかもそのやり方も比較的各地域に任せるというものだ。優秀な人間を各地域に出して、任せるから好きなものを作って現地でビジネスをして来いという、日本から見ればかなり思い切ったスタイルと言える。当然やり方が地域によって違い、同じブランドであっても作っているサブブランドは地域ごとに違う、といったことも珍しくない。

 

中央集権的なグローバル戦略と、地域への分権化が進んだマルチリージョナルとの中間を取っているのがアメリカ企業。アメリカで良く言われる“think global, act local”を実践している企業が多い。中央集権的にある程度ルールは作るが、地域にもある部分についてはかなりフレキシブルに任せることでバランスを取っている。

 

日本企業に話を戻すと、海外での組織の作り方も「グローバル戦略」にのっとって中央集権で階層的になっている場合が多い。各地域に意思決定権はないので、中央のやり方を上手に複製できるリエゾン・マネージャーが海外に出て現地でやり方を伝える、というのが基本的に多い。いい製品を作ることでビジネスが成り立っていた時代はそれで良かった。日本企業が得意とする「オペレーション・エクセレンス」、つまり、いかに良く作るか、いかに上手に工場を回すかということを競争力の源泉にできた頃は、ビジネスでも日本企業がシェアを獲得することができた。しかし、いまや先進国はもちろん、ある程度の力を持つ新興国も日本企業の「オペレーション・エクセレンス」を真似できるようになり、「良い製品」を作る部分ではかなり差がなくなってきた、と池上氏は指摘する。

 

日本企業にとってもうひとつ手ごわいのは、新興国が桁違いでコストの安いものを市場に投入するようになってきたことだ。100点満点どころかたとえ50点ぐらいの製品でも、値段が10分の1ならそれで良し、とする部分が市場の中でも徐々に大きくなっている。特に新興国に広がる低価格市場に顕著で、その規模は年々増大している。そこは日本企業が現在勝ちきれていない市場でもある。勝つためにはこれまでの日本の常識とは違うやり方が当然必要になる訳だが、その現状を把握している現地の人間には意思決定権はないため、結局何もできない、ということが多い。そこが問題だと池上氏は言う。「現地で回せば上手くいくから任せればいいのに、意思決定権が中央にあるばかりにせっかくのチャンスが潰されている。日本企業の大きな問題点のひとつです」。

 

日本企業の多くは、これまで重要なことは中央で決定し、それを各地域で実践してもらう、というスタイルを取ってきた。何か新しいことを始める場合も決定するのは中央、つまり日本の本社だ。「日本は日本でしかイノベーションが起こらないという前提でやっています。でも、日本以外の企業、欧米や韓国の企業などはもっとフラットに海外でも意思決定をさせているので、海外で起きたイノベーションを取り込むことができる。日本も、海外でもイノベーションが起こることはあって、本国がそれに従うこともあるということを理解し、それを踏まえた組織構成にして人材を育成していくことがもっと必要です」と池上氏は、意識改革とその実践の必要性を訴える。

 

エグゼクティブ・レベルが体系的に学ぶ重要性

人材の育成に関して、池上氏が准教授を務める早稲田大学では、ヨーロッパ連合(EU)のエグゼクティブ教育プログラムを受け入れており、氏がコーディネーターとなっている。このプログラムは、ヨーロッパのエグゼクティブを毎年40~50人選抜して日本に派遣し、1年間日本に滞在させて日本語およびビジネスを学ばせるというもので、日本の大学や企業間ネットワークを持っている機関などに依頼し、参加者に体系的な教育を受けさせている。ヨーロッパ共同体の時代だった1979年に開始されたプログラムで、30年の間に参加した累積約1,000人の「日本ビジネスのプロ」がいるという。

 

また、中国も、国家レベルから大企業、中小企業まで様々な形でエグゼクティブを教育するためのプログラムに出資しており、池上氏がいる早稲田大学にも多数の参加者がやって来る。「きちんと体系的に学ぶことで、ある程度大きなフレームワークの中で今何が起きているのか、今後どうなるのかという長期的なことがわかるようになるんです。大きなストーリーはこうで、今回訪問した会社は現在こうなっている、といったことがちゃんと見えるようになるので、ある現象が自分の会社にとってどういう意味があるのか、といったことも解釈しやすくなる。」これは、海外からの参加者へ教育プログラムを提供する側である氏が率直に感じていることである。「日本も、エグゼクティブの教育にちゃんとお金を使って、海外の大学などに頼んで体系的に学ぶ機会を作ることをもっとやった方が良い。もちろん、既にやっている企業もありますが、まだまだボリュームが少ない」と、日本でのエグゼクティブ・クラスへの体系的な教育の不足に強い懸念を示す。「日本は、ちょっと実利的になりすぎている面があります。コンサルティング会社が設定したプログラムも良いのですが、結果的に短期の“訪問”になることが多い。外を見る大事さは理解されているのに、さらに外で一定の時間を使って体系的に学習することはあまり重要視されていないという、メンタリティの問題でせっかくのチャンスをムダにしてしまっているんですよね」。

 

つづく

 

 

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.165(2010年05月05日発行)」に掲載されたものです。

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