シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOP日本企業の「グローバル戦略」とリーダーに求められるもの(2)

ビジネス特集

2010年5月5日

日本企業の「グローバル戦略」とリーダーに求められるもの(2)

早稲田大学大学院 商学研究科 准教授、サイコム・ブレインズ講師池上重輔氏

二度の英国大学院留学経験と米系、欧州系、日系と様々な国籍、様々な業界の企業の現場での経験を持ち、企業戦略やマーケティングにも詳しい池上重輔氏。日系企業が海外でビジネスを展開する上で、何を見て、何をすべきか――国際経験豊富な氏の視点に迫った。

 

 

1割で日本を好転させられるかも?

p2-1中では内需の減少に歯止めがかからず、外ではうまくビジネスで勝ちきれていないという日本の現状についてもまた、どちらもメンタリティの問題だと氏は指摘する。「内需が減っているのは、みんな倹約していてモノを買わないから。欲しいものがあっても我慢してしまう。みんなが買わないと、ますます景気が悪くなって、給料が減って、もっと買わなくなって、というマイナススパイラルに入ってしまうんです。みんなが使わないから、仕方なく政府がお金を使って公共事業をしようとしていますが、今度はこれが国の借金になることからそれがまた心配で、結局みんなお金を使わない。」このマイナススパイラルは、海外で活動している日本企業にも影響を及ぼすことになる。中央集権的な組織では、本社が倹約すれば海外の現地法人や支社も、例え現地でのビジネスが上手くいっていても本社の方針に従って倹約モードにならざるを得ない。本当は業績が良くて資金もあるので現地での採用を増やして業務を拡大したいができない、なぜなら本社に合わせなければいけないから、という話がいっぱいあるのはもったいない、と氏が語るように、日本企業が最近海外市場で勝ちきれない一因になっているようだ。

 

ではそれらの状況を変えるにはどうしたら良いのだろうか。池上氏は「企業も個人も今より1割だけ多くお金を使うだけで実はどちらも解決できるかも知れない」という。企業や個人が1割多くお金を使うことで政府がお金を使わなくて済めば国の借金も減る、じゃあ自分達ももう少しお金を使っても良いんだ、という方向に回り出すのでは、というのが氏の読みだ。加えて、海外で日本のビジネスが上手く行って稼ぐことができそうだ、となれば、企業も個人ももっと安心してお金を使えるようになるかもしれない。ということは、日本企業が海外で勝てる体質にならなければいけない訳だが、そこで先の話がリンクしてくる。つまり、イノベーションは外でも起きる、ということを前提とした組織作りだ。「日本のGDPは、世界のGDPの10%で、その比率でいけば日本国内1に対して海外9でビジネスをしても良いし、そういう風に組織構造を変えても良いはずなんです」。

 

ただし、ビジネスの割合を海外9割にした場合、そのやり方には注意が必要だ。日本の海外部門のトップは、アメリカの影響が強い人達が多い。アメリカで成功した人が日本に戻って海外事業を統括する部門に入るケースが多いからだが、アメリカでのやり方が海外の他の地域にも通用するとは限らない。ヨーロッパにはヨーロッパのやり方、アジアにはアジアのやり方があり、場合によっては意思決定の仕方も変える必要がある。あるいは、そもそも違いがあるということを認識するところから始めなければならないのかもしれない。

 

予め知識を取り込み、成果を倍以上に

日本と諸外国の違いを端的に示すある調査結果がある。国民文化および組織文化の研究で第一人者として知られるオランダ人学者ヘールト・ホフステード氏が行ったもので、「上司は部下の質問に対し正しく答えられるように常に準備しておくべきか?」という質問をしたところ、日本では「そう思う」と答えた人が8割近くにのぼったという。一番少なかったのは、スウェーデンで、「そう思う」という回答は約1割だった。「組織のあり方とか、いろんな価値観の違いがあります。それがどのぐらい違うのかということを、一旦勉強しておく必要もあるんですが、日本は実践に偏りすぎ。座学で学んだ方が効率的なことはたくさんあります」と池上氏は座学の活用を勧める。例えば、海外駐在が決まったら、赴任先の文化的な相違や、どんなコミュニケーションの仕方があるのかといったことや、日本とやり方が違うのでこのぐらいまでは踏み込んでも構わない、といったことを座学で学んで予備知識として持っておけば、現地で違いに戸惑うこともずっと少なくなるだろう、という。しかし現実には、そういう事前準備を十分にした上で赴任できるケースはあまり無いようだ。

 

さらに日本企業の場合、日本で課長だった人が海外で部長というように、海外赴任でいきなりマネージメントレベルも上がるケースも多い。マルチカルチャーだ、グローバル戦略だ、と、急に視座が上がる。日本では課長レベルの知識で回せた業務であっても、海外では10倍の知識が必要かもしれないが、その知識を身に付けるための準備を何もせずにいきなり出てしまうケースが多い。「せっかく海外駐在で100のことを学べるチャンスがあっても、10しか学べずに日本に帰ってきてしまうという話がすごく多いんです。現地で数年間を過ごしながら、大した成果も出せずに。きちんとした形で事前にトレーニングをしてそれを生かせれば、現地でも今の数倍の成果が出るし、本人もすごくいいグローバルリーダーになって帰ってくるチャンスがあるのに、みすみす潰している。本当にもったいないと思います」と池上氏は現状を憂慮する。

 

日本企業で事前研修などにあまり時間を割けないのは、その必要性に気付いていない人が多いからだろう、と氏は推測する。「研修なんて、そんな暇あったら仕事しろよ、って思っている部分があると思うんです。でも、研修が会社にとっても大事で必要だという認識があれば、みんなやるはずです。」そこで氏が提案するのが、事前研修を評価の対象にすること。「上司が、出張や海外駐在の前に例えば仕事の20%を事前準備に充てること、それをきちんとやれたかどうかを今期の評価の3分の1、あるいは4分の1にするぞ、と伝えること。研修が重要だという認識を明確にすることです。」これができるかどうか、多くの日本企業にとって今後の課題のひとつだろう。

 

つづく

 

 

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.165(2010年05月05日発行)」に掲載されたものです。

おすすめ・関連記事

シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOP日本企業の「グローバル戦略」とリーダーに求められるもの(2)