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ビジネス特集

2010年5月5日

日本企業の「グローバル戦略」とリーダーに求められるもの(3)

早稲田大学大学院 商学研究科 准教授、サイコム・ブレインズ講師池上重輔氏

二度の英国大学院留学経験と米系、欧州系、日系と様々な国籍、様々な業界の企業の現場での経験を持ち、企業戦略やマーケティングにも詳しい池上重輔氏。日系企業が海外でビジネスを展開する上で、何を見て、何をすべきか――国際経験豊富な氏の視点に迫った。

 

 

シンガポールの捉え方――池上氏の視点

シンガポールについて池上氏は「現時点では非常にいいポジションを謳歌している」と表現する。シンガポールはいまや東南アジアの金融のハブであり、優秀な人材や資金も引き入れている。ただ、今後国の規模がさらに大きくなった時に、例えば日本企業にとって今と同じメリットを得られるのか、さらには、他の国が本気でシンガポールが今いるポジションを狙い始める可能性も十分あるということを考えておく必要があるだろう、と氏は指摘する。シンガポールはストラテジックに集中化戦略を取ってきており、かつては製造業、特に半導体関連にかなり力を入れていたが、その後ファイナンスに力を入れるようになり、金融業の発展を後押しするための様々な制度を整えることで他の国より一歩先んじることができた。ただ、「そうなったのもここ数年のこと。シンガポールは英語圏であるという利点があるにせよ、他の国が同じことをやろうと思えば真似できる可能性はある」と、現状がずっと続く訳ではないことに留意が必要だという。

 

経済の面で現在上手くいっている国は、アジアでは中国とシンガポールであることにほとんど異論はないだろう。この二国に共通して言えるのは、意思決定がトップダウンで早い国であること。変化の早い状況では、迅速な対応を可能にするためにも有利なシステムだ。特にシンガポールの場合、金融立国として小さな投資で大きな利益を上げることに成功した要因のひとつだろう。ただし、その「レバレッジの効くおいしさ」を味わってしまったことが、心配に繋がる可能性もあると池上氏は見ている。「仮に金融立国としてのポジションが他の国に移って資金が流出したら、おそらく人材も同様に流出が起きる。そうなると、国の中にいる人材だけで何とかしなければなりません。レバレッジの効くおいしさを一度味わってしまった人達が、例えば額に汗して働くような仕事に変わるのは非常に辛いこと。その時に自分達はどうするか、ですね。」今は良くても必ず反動があるので、今後起きる可能性のあること、その際に求められることにも目配りをする必要があるという訳だ。

 

日本を海外でマーケティングする

p3-1あるやり方で一度良い思いをしたら、そのやり方を変えるのがなかなか難しいというのはいろんな世界で言われていることだ。日本でも自分達の既得権益を守るために今のやり方を変えたくない、というケースは至るところで見られる。ただし「ある程度行き切って、変えなければならないとなれば、案外すんなり変わるのではと思っているんですよ」と池上氏はいう。「変化できるポテンシャルは日本には十分あって、後はメンタリティの問題だけだと思う。」ここで氏が言うメンタリティの問題とは、日本の良さを外に向けてきちんと説明して納得させられるか、すなわち海外に対してマーケティングができるかということだ。 日本人の多くは、特に自分のことに関して「自分のここが良い」といったことをはっきり人に言うことをはばかる。池上氏は「我々は、そういうのは美学として良くないと思ってきた。でも、そんな美学を持っているのは日本だけ」と、外に対してきちんと日本の良さを伝えられる必要性を説く。良い物を作っていればそれでいい、と言えた時代が過去のものとなった以上、外に対して良さを伝えていく力、すなわちマーケティング力が今後ますます求められることになるという訳だ。

 

これは多くの日本人があまり得意としない点であるが、若い世代には主張することに対して抵抗がない人が増えてきていると池上氏は見ている。「割合としてそれほど多い訳ではないが、上手に主張することを彼らに教えて、彼らがそれをマスターできれば、海外と日本を冷静に比較することができる人間も増えるだろう」と期待を寄せている。

 

また、自分のことはとかく過大評価になったり過小評価になったりしがちだが、絶対に良いもの、絶対に悪いものというのは存在せず、今良いとされているモデルも全体が変われば評価も変わってしまう可能性がある、ということを理解しておく必要があるという。「日本モデルだって、かつては世界で最高だって言われていたんです。全体が変わってコロッと変わってしまいましたが、もうしばらくすればまた『良い』に変わる可能性もある」。

 

ただ、そこで気をつけなければならないのは、これまでと違って新興国も視野に入れなければならないということだろう。従来は日本と欧米の構図だけで考えれば良かったが、変化の後に方向性が定まった時に、日本が得意とするオペレーション・エクセレンスが活かせる状態で、同じようなことを新興国も必死でやろうとして来る。日本と同じような品質はすぐには達成できないとしても、安いコストを武器に割安な価格で市場に投入されれば、日本にとっては手ごわい相手になる。「新興国とも伍していく準備をしなければならない、という事は、今までとは違うことができるように組織や体制を変えていかなければならない。世界は既にそれをやっています。GEがいい例で、新興国からもイノベーションは起こる、彼らにその責任を任せて構わない、そういう組織にしていこう、と本気でその体制にしています。」現地に意思決定を委ねられる組織への変革が、日本企業の多くにも必要であることを改めて強調した。

 

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.165(2010年05月05日発行)」に掲載されたものです。

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