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ビジネス特集

2009年7月6日

「逆境に左右されないワークライフバランスへのヒント」

対談(嶋津良智×勝間和代)

日本国内外で累計著書の販売部数が200万部を越し、「知的生産術」向上のオピニオンリーダーとして知られる勝間和代さんと、「上司学」を中心に、次世代のための魅力あるリーダー育成のためにセミナーや講演会を行う、シンガポールでもお馴染みの嶋津良智さんの二人の対談が香港で実現した。2009年6月に開催された在香港邦人のための日経テレコン21社主催のセミナーの前に、環境に流されないビジネスパーソンの視点を語ってくれた。

 

逆境知らずのビジネスパーソンへ

shimadzu

嶋津良智氏

株式会社リーダーズアカデミー代表取締役社長兼CEO。シンガポールを拠点に、日本、シンガポール、アメリカで会社経営に参画する傍ら、独自メソッドの「上司学」を打ち出し、次世代リーダー育成に努める。近著『上司に使われるな!上司を使え!』(PHP研究所)。

リーダーズアカデミー学長日記 in Sinagpore

 

AsiaX

ビジネスにおいて逆境とされる今、必要な心構えとは?

 

勝間

逆境、と言ってしまうと気持ちまで逆境な感じになってしまいますが、ビジネスパーソンに逆境というのはない。どんな状況にあっても常に自分自身のビジネスモデルを見直すことが大事です。100%会社のビジネスモデルに依存している場合は、かなりリスクが高いです。『会社に人生を預けるな リスク・リテラシーを磨く』(光文社)という自著にも書きましたが、会社がそれぞれ社員の人生を賄える程体力がない今、最高のリスクというのは雇われているという事なんです。

嶋津

雇われていることが否、ではないんですが、その会社がいつ潰れても良いくらいの準備が必要でしょう。確かに会社の収入に100%依存することは危険。お金と時間を自分自身でコントロールできる状況におくことが大事だと思います。

勝間

無論、サラリーマンとしてコントロールできることとできないことがありますが、より自分でコントロールできる状況に近づけるという事ですね。

また、自分の市場価値を常に上げておくために、自分の軸、つまり強み、売りものになるものを作っておくことです。それが自分の価値となって、対外的にいえば、この人にどんな仕事を頼もう、いくら払おうということになるわけです。現在の状況で守りに入ることは自分のリスクを広げることにしかならない。安全というのは退屈の裏返しですし、ダウンサイドのリスクを防ぐということはアップサイドの可能性も捨てているということになる。

不況になると、学生の就職先も半官半民の企業に人気が出るのが常ですが、不況に強いというのは、好況時にもあまり状況が変わらないんです。

 

AsiaX

時間をコントロールするコツを教えて下さい。

 

勝間

私の場合、「好きなことを最優先の法則」という発想に基づいて、好きな事をやるための予定をまずスケジュール帳にささっと入れて、残りの時間で仕事をします。

まず入れるのが、子供の行事、スポーツクラブ、ネイルサロンの予約、友人との旅行などですね。予定というのは予算を組むのと一緒。ですから、今どこをブロックしてどこに時間があるのか、手帳とスケジューラを使って一目でわかるようにしてあります。その隙間の中で仕事をする訳ですから、依頼された時点で、その仕事を引き受けるかどうかとても頭を使います。一端引き受けると、時間管理が大変になりますから、引き受ける前にシミュレーションをして考えます。

嶋津

僕の行動訓として、準備8割本番2割。基本的に忙しく見える人ほど準備を怠っている。例えば海外出張なども、ぼくは携帯するもののリストを作ってあって、出張前の支度は10分で完了します。イメージができるくらい考え抜くことが大切。イメージにはゴールイメージとプロセスイメージがあります。イメージできるほど準備に時間をかければ最短で目的を達成できる。それがないことで、あちこちに遠回りして無駄が生まれる訳です。

 

AsiaX

それはお二人の仕事術にもあてはまりそうです。

 

勝間

基本的には、いかに仕事をしなくていいか、に軸を置く。どうしてもしなくてはいけなくなった時に何をするか、という発想です。また、やらされ感はつらいので、なるべく先回りをして仕事をする、自分がやりたい仕事をするよう心がけます。

嶋津

上司から頼まれた仕事はしない、という一説が貴著の中にありました。

勝間

だいたいの上司は思いつきで仕事を依頼しますから。頼まれた時に反論できる上司と仕事をすべきです。そんな上司に社内異動のときに引っぱってもらうなどの努力が必要ですよね。会社勤めの幸せは、直属上司によって決まってしまいますから、仕事を上手くやるよりも良い上司と仕事をする事に注力すべき。真剣に上司選びをした方が良い。併せていえば、直属上司と直属部下、ですね。

先程の準備8割ではありませんが、仕組み作りが大事です。それが上手く行かない時は、修業時代として愚直に頑張って、何とか1、2年で抜けられるように努力する。もっとしたたかになれ、つまり自分で交渉して道を切り開く、上手く立ち回れということを言いたいですね。

断る力、アサーティブな自己表現力を学ぶ

katsuma

勝間和代氏

経済評論家、公認会計士。株式会社監査と分析代表取締役。

ワーキングマザーのためのウェブサイト「ムギ畑」の運営が評価され、ウォール・ストリート・ジャーナル「世界の最も注目すべき女性50人」に選出された。少子化問題、若者の雇用問題、ワークライフバランス、ITを活用した個人の生産性向上、など、幅広い分野で発言をしており、ネットリテラシーの高い若年層を中心に高い支持を受けている。

『効率が10倍アップする新・知的生産術―自分をグーグル化する方法』(ダイヤモンド社)、『断る力』(文藝春秋社)、『天才! 成功する人々の法則』(講談社)など著書、訳書多数。

勝間和代の公式ブログ:私的な事柄を記録しよう

 

AsiaX

勝間さんの近著である『断る力』の中に、「断る」ことで生産性を上げる方法が書かれていました。嫌われることを恐れるな、とも。

 

勝間

「断る力」が身につけば、「好循環」を生み、いろんなことが見えてきます。断ることで、自分のワークライフバランスも整うし、実力もつく。実力がつくことによって新しい仕事が来た時に、受ける仕事と断る仕事が判断できるようになります。

嶋津

部下育成とか、人間関係もそうですが、「人から好かれたい」という気持ちを捨てた瞬間から人生が良くなる。私自身、こうやったら相手が傷つく、もしくは格好悪いのでは、と過度に思っていました。 部下育成を始めた25才頃、自分の言った事、やった事をいちいち考えることで、自分の人生を不自由にしていることに気づいたんです。その後、すぐにはそのくせを捨て切れず、時々格好つけマンとして出て来ては、いかんぞ、と思い留まる。それを繰り返すうちに習慣化してきました。部下に好かれたいとか良い上司でいたいとか思っていたら、部下の育成はできない。彼らに好かれたいから上司をやっているのではなく、目標達成をさせるために自分がいる訳ですから。

勝間

「断る力」をつけていくのは、身近なところで小さな断りを実践しながら、だんだんと取り入れて行けば良いと思います。つまり、自己主張の訓練ですよね。自分の言いたい事が相手にソフトに伝えられるかどうか、という。「説明責任」と呼んでいますが、相手を否定しているのではなくて、たまたま自分の考えがこうだから、これに関してはダメだよ、ということをちゃんと伝えること。飲み会に関しても、ここはこういう都合だから行けない、という風に。依頼された仕事を断る時には、単に断るだけではなくて、可能なら他の方を紹介するなど、相手も大事にする態度を示すことも大切です。

 

AsiaX

「断る力」が多くの人に備わる事で、社会はどう変わって行くのでしょうか。

 

勝間

ビジネスでの交渉や普段の生活も含めて、随分と楽になりますよ。

お互いの得意な分野を磨き合いながら、相互依存する、という形が理想ですね。自分はこういう事が出来る、相手にこういう事を貢献できるという自立した形で依存し合いましょう、ということです。自分がぶら下がるだけの形での依存はやめましょう、ということを言いたい訳です。

つまり、もっと自分の強みにフォーカスする。そして自分の弱みを補ってくれるパートナーと仕事をする、または人を雇うとか、強みが活かせないなら、そもそもその仕事はやらないとか。弱みに対して、苦手意識を持ってもじもじするのが一番良く無い。自分の中での選択が必要です。

 

AsiaX

自分自身に対しても「断る力」が必要なんですね。

シンガポールの読者に向けて、メッセージをお願いします。

 

勝間

異国にいるというメリットを知る、そしてそれを活かすべき。先日、私が翻訳した世界的なベストセラー『天才!成功する人々の法則』(講談社)の著者であるマルコム・グラッドウェル氏をインタビューした際に、彼があのような本が書けたのは、自分がアメリカに住むカナダ人だからだろう、と言っていました。アメリカの中でアメリカ人がどのように動くのかを第三者的に見られたからだと。シンガポールで暮らしていると日本の暮らしを第三者的に見られるはずです。

嶋津

シンガポールに拠点を移してから、僕自身も見方がわりましたね。外国人の見方も変わったし日本人への見方も変わった。

勝間

外からの目が持てる。日本に対してシンガポールという比較対象がある訳ですから、生活様式、ビジネスのやり方の違い、人の考え方や文化がどう違うということがわかる。比較するための軸をいくつか持つという事はとても大事です。

真のビジネスパーソンの心意気を知る

AsiaX

5年先、10年先を見通したお二人の取り組みを教えてください。

 

勝間

私は、「社会実験」と呼んでいるんですが、日本の社会システムの不都合をどのように問題喚起して、メディアを通して、自分もプロアクティブに活動しながら変えて行けるのか、ということに現在取り組んでいます。

日本は、少数派である若者、女性、子供に対して冷たい。その現状をいかに自覚して、少数派が明るく暮らせる社会へどのように変えて行くか、それを全体から考えることと、少数派自身がどのように自立するのかという両面から考えて行かなければならない。私は、その事に対して声を上げる、つまり政府の諮問委員会に出席したり、メディアでの活動をしたりという流れで全体に働きかけて、世論形成をしているわけです。

 

AsiaX

具体的には、どのようなことでしょうか。

 

勝間

「15の提言」というのを掲げているのですが、5年後、それらに目処がたっていればいいな、と思います。今すでに3つ、4つ目処が立ちそうな感じです。パパクォータ制度(男性への育児休業割当制度)の導入や待機児童問題の対策も進みつつありますし、厚生労働省から分離するかたちで子供省の設立も検討されています。教育費について日本は対GDPに対して低過ぎるということを突付いています。それに対して、一時財源ではあるものの、国公立大学の学費を下げるか、補助を出す動きに繋がりました。

また、議論にすらなっていない問題点で、例えば、嫡出子と非嫡出子の法的差別について、民法レベルで変えて行く必要があることや、自由な家族形態についてももっと議論したい。別居婚、別姓婚、同性婚、いろんな形態があっていいはずなのに、日本はその辺りが一切認められていない。日本より変な国はない、と思ってしまう程厳しい。法的な部分、社会基盤、サービスの仕組みを変えていく、そこにチャレンジをしていきたい。いろんなことを考えていますが、それぞれ私が死ぬまでにできればいいかなと。(笑)後退することがなければ前進するのみですから。

嶋津

ある新聞の記事に、子供悩み相談室を設けたら、子供達から18万件もの電話があったそうです。本当に現代の子供が病んでいるという事ですよね。私の「上司学」というプログラムの中でも話すことですが、スポーツ選手も対象に含めて周りに憧れる大人がいるかという質問に対して、いると答えたのが全体の50%程度だったそうです。おそらく身近にいる大人に限ったら、もっと少なくなるでしょう。

子供達や若者が生きてて良かったと思えるような良い世の中にするためにも、我々大人達が魅力的で憧れを与えるような存在にならなければいけないと思うんです。そのためには、まずは、子供や若者を教える側にある先生や上司といった人達から、そんな存在にならないといけない。そういった意味で、自分はこれからもリーダー教育を中心に取り組む事で貢献していきたいです。

 

AsiaX

お二人の座右の銘を教えて下さい。

 

嶋津

「We live once, go for it!」。人生は一度きり、やってみろよ、と。人の目を気にしている場合ではなく、やりたいことをやってみる。20代の頃からずっとそれが信条です。何かあったときに「たった1回の人生、お前はどうしたいの?」と自分に問いかけるようにしています。人生一回だと思えば、断る勇気もきっと出てくる。

勝間

「起きている事はすべて正しい」。5年程前、会社や仕事が上手く行かず混乱していた時に、一度すべてを受け入れてみないといけないのでは、と思いました。拒否する事なく、起こっている事全体をフラットに見ていると、人生変わります。人生一回、という発想に近いかもしれません。こんなはずじゃなかった、と否定に走るのではなく、その時に自分がどう対応したら、その状況を楽しめるのかを考えて行動するようにしています。

 

インタビュー後記

1時間程度の和やかなインタビューの間、著書仲間として面識があったという二人は、時の人が放つオーラを交換しながらも、驚く程シンプルに洗練された具体的な行動指針を惜しみなく語ってくれた。人生山あり谷あり、あらゆる経験を前向きに自分の血肉としたからこそ、と感じる。

紙面に限りがある中で、ご紹介できるのはほんの一部。勝間流、嶋津流の人生の立ち回り方をもっと知りたい読者へ、次回シンガポールでの対談の実現を待ちながら、著書を手に取ることはもちろんだが、まずは、二人の日々の活躍を綴ったそれぞれのブログを覗いてみることを強くお薦めしたい。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.148(2009年07月06日発行)」に掲載されたものです。
取材=桑島千春

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